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EU電力市場設計の改変に7カ国が警告 EU ETSカーボンプライシング防衛をめぐる欧州内亀裂が鮮明に

2026.03.08 更新 2026.03.09 読了 約3分
EU電力市場設計の改変に7カ国が警告 EU ETSカーボンプライシング防衛をめぐる欧州内亀裂が鮮明に
出典:イメージ

欧州連合(EU)7カ国のエネルギー相が2026年3月5日、EU ETSを支える電力市場の価格形成メカニズムへの介入に反対する共同書簡をエネルギー担当のダン・ヨルゲンセン(Dan Jørgensen)欧州委員に提出した。

高騰するエネルギー価格への対応として一部加盟国が求めるガス火力発電のCO2コスト免除措置は、EU ETSの構造的完全性を損なうとして、書簡署名国は強く牽制している。

7カ国の署名と背景

書簡に署名したのはオランダ、スウェーデン、デンマーク、フィンランド、ラトビア、ルクセンブルク、ポルトガルの7カ国。イランをめぐる地政学的緊張を一因とした世界的な化石燃料価格の高騰が欧州の電力価格を押し上げており、産業界からは米国・中国との競争力格差を訴える声が相次いでいる。

ウルズラ・フォン・デア・ライエン(Ursula von der Leyen)欧州委員会委員長も現行の価格設定方式を見直す可能性を示唆しており、2026年3月19日の競争力サミットを前に欧州委員会が複数の対応策を検討中であることが明らかになっている。

書簡の核心、市場設計への介入がもたらすリスク

署名7カ国は、現行の「メリットオーダー」方式、需要を満たす最後の電源が市場全体の電力価格を決定する仕組みに基本的な欠陥はないと主張する。高価格の根本原因は「高価な輸入ガスへの依存」にあり、市場設計そのものにはないとの立場だ。

書簡では、価格形成メカニズムへの介入について「より非効率な仕組みを生み出し、最終的には電力コストの上昇につながる」と警告。投資家の信頼を損ない、グリーントランジションに不可欠な大規模資本の流入を妨げるとも指摘している。現行制度が域内の国境を越えた電力取引を支援することで、年間約340億ユーロ(約6兆2,560億円)の経済効果をもたらしているとの試算も示した。

代替策として同7カ国が求めるのは、再生可能エネルギーの普及加速によるガスの価格設定力の低減と、低価格時帯における消費者の柔軟な需要応答の強化である。

EU ETSと炭素コスト免除問題

今回の書簡が対峙するのが、イタリアの独自提案だ。同国はガス火力発電事業者のEU ETSに基づく排出枠の費用を電力料金から切り離す措置を国内政策として表明している。この提案が実現すれば、CO2排出量に価格を付けることで低炭素電源への移行を促してきたカーボンプライシングの経済的シグナルが大幅に希薄化する。

スウェーデンとフィンランドはEU内で最も低い電力価格水準を誇り、いずれも発電量の90%超を低炭素電源で賄っている。一方、石炭火力への依存が続くポーランドとは対照的な構図となっており、加盟国間のエネルギー構成の差が政策立場の分断を生んでいる。

カーボンクレジット市場への波及

EU ETSの制度的安定性は、欧州のカーボンクレジット市場全体の信頼基盤を形成している。

ガス火力へのCO2コスト免除が制度化された場合、排出枠(EUA)価格への下落圧力となるだけでなく、ボランタリーカーボンクレジット市場においても企業がオフセット需要を見直す誘因を生みかねない。また、EU ETSの価格シグナルが弱まれば、直接空気回収(DAC)や炭素除去(CDR)技術への投資判断にも間接的な影響を及ぼしうる。

EU ETSの価格シグナルが政治的圧力によって歪められるリスクは、日本企業にとって対岸の火事ではない。GX-ETSの本格稼働を控える日本においても、エネルギー価格対策とカーボンプライシングの整合性をいかに担保するかは喫緊の課題であり、欧州の今次論争は日本の制度設計に向けた反面教師として精読に値する。

イタリアの「炭素コスト切り離し」提案が通れば、CBMAMを活用して輸出競争力を論じる日本企業のシナリオにも再計算が必要となろう。

関連タグ ETS 欧州
カーボンクレジット.jp 編集部
カーボンクレジット.jp編集部|2023年末に当時日本初かつ唯一のカーボンクレジット専門情報メディアを立ち上げ。高度な専門性とわかりやすさを追求した翻訳力。