カーボンクレジット市場では、再生可能エネルギー由来のクレジットや非化石証書が、長らく主役の座を占めてきた。しかし、GXリーグにおける排出量取引制度(GX-ETS)の本格始動や、24時間カーボンフリー電力(24/7 CFE)をめぐる議論の高まりによって、その価値構造は着実に変わりつつある。
WEBマーケティングと太陽光発電を出発点に、カーボンクレジットの創出から販売までを一気通貫で手がけるエレビスタ株式会社(以下エレビスタ)。同社のカーボンクレジット事業を率いる河村氏に、再エネクレジットと証書の使い分け、価格の動向、そして市場全体の見通しを聞いた。
エレビスタの源流は、太陽光発電の仲介売買にある。事業拡大の中で、2021年日本政府がカーボンニュートラルへの姿勢を一段と鮮明に打ち出したことで、隣接領域であるカーボンクレジットへの参入を決めた。事業戦略上の、自然な延長線だったという。
エレビスタのカーボンクレジット事業は、創出から販売までを一貫して担うプラットフォーム型のサービスである。販売面では非化石証書も主力に据えつつ、近年は再エネ由来のJ-クレジットや、再エネ以外のボランタリークレジットへと取扱いを広げてきた。創出面では、現在J-クレジットに最も注力している。
「起点は非化石証書だった」と河村氏は経緯を説明する。
当初は証書の取引が中心だったが、オフセット需要の多様化に応じて、J-クレジットやボランタリークレジットの仲介売買へと裾野を広げた。さらに足元では、J-クレジットの供給が逼迫している。仕入れが難しく、需要が供給を上回る局面が続いているのだ。「それならば、自分たちで創ったらいいのではないか」。供給制約への対応こそが、創出事業に踏み込んだ直接の動機だった。
創出支援の中身を見ると、J-クレジットが半分以上を占め、なかでも太陽光発電のプロジェクトが中核を担う。省エネルギーや森林分野も同様に手がけ、ボランタリークレジットの創出支援にも一部対応する。注力先をJ-クレジットに置く理由は明快で「GX-ETSの存在によって、買い手から見て一番わかりやすい、売れやすいものになっているから」。制度がニーズを可視化し、それが創出の優先順位にも反映されている。
現場で顧客に説明する機会が最も多いのが、証書とカーボンクレジットの違いだという。両者は混同されやすく、市場でも繰り返し解説されてきた論点である。河村氏がまず示すのは、シンプルな対比だ。「カーボンクレジットはCO2に対するもの、証書は再エネ電力に対するもの」。CO2の削減量を認証するのがカーボンクレジット、電力の環境価値を切り出すのが証書、という整理で説明すると、顧客の理解は進みやすいという。
ただし、河村氏自身も「再エネ由来のカーボンクレジットが絡むと、とたんにややこしくなる」と認める。ここに、実務上重要な墨分けが必要になる。
ポイントは、再エネ由来のJ-クレジットが、CO2のカーボンクレジットでありながら「証書」として機能する点にある。
再エネ発電由来のJ-クレジットは、これをRE100やSBT、CDPといった枠組みで、Scope2の再エネ利用主張に充当できる。省エネや森林由来のクレジットがCO2の削減・吸収量として扱われるのに対し、再エネ由来のクレジットは、実質的に再エネ証書と同等の用途を持つ。「カーボンクレジット=CO2、証書=電力」という対比は入口の理解としては有効だが、再エネ由来クレジットの一点で、両者は重なり合う。
では、同じ再エネ電力をめぐって、再エネ由来クレジットと証書の二重計上は起きないのか。この点は制度設計で手当てされている。同一の発電量から取り出せる再エネの環境価値は、非化石証書、グリーン電力証書、再エネ由来J-クレジットのいずれか一つに限られる。太陽光を例にとれば、FIT・FIP(固定価格買取制度・市場連動型のプレミアム制度)で売電した分の非化石価値は、非化石証書として分離・管理されるため、その分を重ねてJ-クレジット化することはできない。J-クレジットの対象となるのは、原則として自家消費した電力分である。J-クレジット制度の実施規程でも、他の類似制度で認証された期間の二重認証や、譲渡した環境価値の二重主張は禁じられている。
創出を検討する事業者にとっては、自社の電力がどの制度の土俵に乗るのかを最初に見極めることが、出発点となる。
その上で、どちらを勧めるのか。まずは制度要件が判断の起点となる。「対象となる設備や事業所の条件に照らし、提案できるものを絞り込む」。いずれの選択肢も取り得る場合には、基本的にJ-クレジットを推奨している。理由はやはり、GX-ETSを背景に需要が高いからだ。制度が需要の所在を示し、それが提案の方向にもつながっている。
価格動向について、再エネ由来クレジットと証書を同じ土俵で比べると、再エネ由来クレジットの方がやや高い、と河村氏は指摘する。その理由を「使用範囲の広さ」に求める。J-クレジットはScope1の削減に充当できるが、証書はそれができない。GX-ETSが基本的にScope1を対象とする排出量取引制度である以上、Scope1にも使える再エネ由来クレジットには、その分の価値が上乗せされる。価格差は、用途の広さの差として説明できる。
もっとも、河村氏はこの価格差を恒久的なものとは見ていない。かつて省エネルギー由来のクレジットが1トン 1,300円程度、再エネ由来が6,000円近くで取引された時期もあったが、その差はScope2にも使えるという「プレミアム」が乗った結果だと分析する。「ただ、これはあまり本質的ではない」。中期的には、再エネクレジットも他のクレジットと同じ水準へ収斂していくとの見立てだ。むしろ、グローバルでは吸収・除去系のクレジットの人気が高まりつつあり、国際的な価値観に近づくにつれて、再エネクレジットの相対的な評価はやや下がる可能性すらあるという。
支援の現場で顧客が直面する課題を、河村氏は「わからない」と「手間である」の二つで整理する。
「わからない」には複数の層がある。まず、そもそもカーボンクレジットという概念自体が、CO2がお金になるという性質ゆえにリテラシーが無いと、場合によっては「怪しい」と受け取られがちで、その心理的なハードルが入口で立ちはだかる。
次に、カーボンクレジットの有用性を理解した後も、何から着手すればよいかがわからない。プロジェクト登録が必要だと知っても、申請資料の作り方がわからない、といった具合に、各ステップで調査が必要になる。信頼性を担保するための工数だが、それが累積して大きな障壁となる。
「手間である」も「わからない」と地続きだ。計画書をExcelで作成し、認証のために現地確認の工程を踏むといった手続きは、勉強すれば乗り越えられるとはいえ、相応の手間を要する。エレビスタは、この二つの壁に対して、知識面を補完しつつ、必要に応じて実務をまるごと引き受ける伴走支援を提供する。「わからない部分を担保し、要望があれば後はこちらでどうにかする」。専門性と代行力の両輪が、同社の支援モデルの核にある。
マクロな市況について、河村氏は再エネの環境価値とカーボンクレジット全体の二つの文脈に分けて整理する。
再エネの環境価値については、「再エネだけが突出して高い」という従来の構図は薄れ、他のクレジットと同じ水準へ収斂していくとの見方を示す。その上で、構造変化の震源として二つの論点を挙げた。

第一に、24/7 CFEである。電力の使用と再エネ調達を時間単位で一致させるこの考え方が広がれば、年間総量での相殺を前提としてきた証書の立場は難しくなる。シリアル番号の付与など対応策の議論は進むものの、制度対応がまだ追いついていない。「いずれ追いつくと思われるので悲観的になる必要はない」としつつ、証書一本足での運用にはリスクが高いと釘を刺す。時間と場所のトラッキングや長期契約が要件となる流れのなかで、長期契約に対応しやすいグリーン電力証書の重要性が増す、と河村氏は見る。
第二が、再エネの直接調達である。証書というオフセット手段から、再エネ電源そのものを確保する方向へと、需要家の関心が移りつつある。「証書に頼りきりだと危ない。一手段として活用するのは良いが、最も安いから全量を証書で確保すればよい、というスタンスは難しくなる」。証書を主力商材としてきた事業者自身の言葉である。
カーボンクレジット全体については「概ねポジティブな方向に動いている」と総括する。特定の大口需要家の動向に市場が左右される側面はあるものの、経済産業省がGX-ETSという制度を立ち上げた意義は大きい。上限価格の設定をはじめ、トップダウンでの整理が段階的に進んでいる。「一度設定した方針を国が覆すことは考えにくい。加速度に差はあっても、前には進んでいく」。制度を起点に需要が立ち上がる、日本市場の特性を踏まえた見方だ。
なお、太陽光をめぐっては、国内での環境面の批判や、近年の国際情勢を背景とした再エネ回帰の議論など、評価が揺れ動いてきた。現場の感覚について問うと、河村氏は「現場は経済合理性で動く」と答える。固定価格買取制度(FIT)や蓄電池の普及といった採算性が、設備導入の意思決定を左右する。だからこそ、経済性に沿った設計を組めるかが要諦となる。同時に、原理原則として「3E+S」、すなわち安全性を前提とした安定供給・経済性・環境性の三要素と、エネルギー安全保障の観点は避けて通れないとも語る。
エレビスタが掲げる将来像は明確だ。「カーボンクレジット取引の取扱いで、日本ナンバーワンになる」。プラットフォームとして成立させるには需要と供給の両側を集める必要があるが、河村氏は現在の制約が供給側にあると見る。「需要側は今の業界では比較的集めやすい。むしろ、何をどれだけ創出できるかが、今の事業で最も重要な論点だ」。カーボンクレジット系の事業者の多くが、この供給確保に照準を合わせているとの認識である。だからこそ、創出の上流にあたるプロジェクトの組成と運営に、経営資源を傾けている。
その創出の現場で、エレビスタが磨いてきた仕組みがプログラム型のスキームである。太陽光については、同社がプログラムの運営・管理者となり、事務局への申請や関係機関とのやり取りを一括で代行する。設備保有者は初期費用ゼロで参加でき、創出された環境価値から得られる収益を分配する設計だ。設備保有者一人ひとりと個別にやり取りするのではなく、EPC(設計・調達・施工)事業者を介して取りまとめる座組みを採る。対象には住宅用太陽光も含まれ、省エネルギーなどプログラム型が組める分野へと、今後さらに拡大していく方針である。
こうした背景から、エレビスタが連携を求めるパートナー像も具体的だ。カーボンクレジット創出を検討するプロジェクトオーナーを基本としつつ、とりわけEPC事業者からの相談が多いという。自社のソリューションにJ-クレジットを組み合わせたい事業者や、太陽光関連のソリューションを展開する事業者であれば、代理店として同社のサービスを活用できる。設備を保有する企業も対象となる。「J-クレジットを創り得る企業であれば、基本的に相談の対象になる。これは創れるのか、という段階の方こそ、まず話を聞かせてほしい」。

証書とクレジットの使い分け、とりわけ再エネ由来クレジットの位置づけや、24/7 CFEへの備えをどう設計するか。開示や評価機関対応に取り組む実務家にとっても、現場からの視点は参考になるはずだ。供給制約が続くなか、創出から販売までを一貫して担うエレビスタが創出量をどこまで伸ばすか、その動きに注目したい。