欧州の航空大手15社のCEOが2026年6月8日、欧州委員会のフォンデアライエン(Ursula von der Leyen)委員長らに連名書簡を送付し、来月予定のEU ETS見直しでEU域外発の国際線へ適用範囲を拡大する案に強く反対した。現行のEU ETSは域内線のみを対象としている。
書簡には業界団体A4E(Airlines for Europe)加盟のエールフランスKLM(Air France-KLM)、ルフトハンザ(Lufthansa)、ライアンエア(Ryanair)、ブリティッシュ・エアウェイズ(British Airways)を傘下に持つIAG、イージージェット(easyJet)、TUI、エアバルティック(AirBaltic)など15社のCEOが署名し、リオデジャネイロで開催中のIATA年次総会の場で明らかになった。
航空各社は、域外便へのカーボンプライシング拡大が欧州の旅客・企業の負担を増やし、域外キャリアやハブへ旅客・貨物・排出を流出させると主張した。非欧州の競合は同様の負担を負っておらず、EU籍キャリアの競争力を損なうとの立場である。
A4E加盟社のETS関連負担は2024年に23億ユーロ(約4,300億円)に達し、2030年には50億ユーロ(約9,250億円)に拡大すると試算する。書簡はネットゼロ達成に伴う追加コストを1.3兆ユーロ(約240兆円)と見積もり、ETS収入をSAF(持続可能な航空燃料)の調達契約や航空機・エンジン・運航技術への投資に還元すべきだと求めた。
各社は2011年の経験を引き合いに、一方的なEUの措置が報復や貿易摩擦を招くと警告し、ICAOの立場に沿って適用範囲の拡大を選択肢から外すよう要求した。
書簡の核心は、ETSの一方的拡大が国連ICAOのCORSIAの正当性を損なうという主張にある。CORSIAは国際線の排出増加分をオフセットで相殺する枠組みであり、絶対量の削減を義務づけない。航空業界はETSのコストをCORSIA水準まで引き下げ、グローバルな多国間枠組みに一本化するよう求めている。
一方で欧州委員会は、CORSIA単独では脱炭素を駆動できないとの立場を崩していない。委員会は適用拡大が短距離キャリアと長距離国際キャリアの間の不公平を是正すると説明する。委員会向けの2021年の調査も、CORSIAが排出削減につながりにくく欧州の気候目標を損ないかねないと警告していた。
本件は、航空部門のカーボンプライシングをめぐる規制市場と国際的オフセット枠組みの綱引きが、ETS見直しという制度更新の局面で再燃したものと位置づけられる。論点の構図自体は過去から繰り返されてきたものであり、新たな対立軸が生じたわけではない。
ただし航空業界が求めるCORSIA一本化は、キャップによる総量規制と、増加分をオフセットで相殺する仕組みという、本質的に性格の異なる二つの制度のいずれを国際航空の脱炭素の基軸に据えるかという選択を迫る。オフセット依存への傾斜は、削減を優先する回避・低減の優先順位との整合性という観点で評価が分かれる。
CORSIAのオフセットが実際に排出削減を駆動するか否かが、ETS拡大の是非をめぐる議論の帰趨を左右する。
参考:https://a4e.eu/publications/15-european-airline-ceos-call-for-pragmatic-revision-of-eu-ets/