7月のEU排出量取引制度(ETS)改正レビューを巡り、産業界の競争力への配慮と炭素価格シグナルの維持という二つの圧力が正面から対立している。
報道が入手した欧州委員会の内部文書によれば、委員会はレビューで重工業向けの無償割当を延長する方針で、その条件として域内での投資を企業に求める。委員会は7月15日に改正案を提示する予定とされる。
内部文書は他の論点にも触れている。国際航空からの排出のうちEUの「公正な分担分」をETSの対象に加えること、供給調整を担う準備金の包括的な再設計、船舶・航空向けルールの簡素化などである。低炭素技術への投資基金や、排出枠売却収益の10%を低所得加盟国へ配分する仕組みは維持される。廃棄物焼却炉の段階的な追加も「検討」されるという。
この文書は、フォン・デア・ライエン(Ursula von der Leyen)委員長と委員らの会合で議論された。委員会報道官は内容へのコメントを避けた。
この動きに対し、投資家連合が制度の堅持を求めて声を上げた。
運用資産総額€13.4兆(約2,480兆円)に上る50の機関投資家は6月10日、EU首脳に対しETSを希薄化しないよう求める共同声明を公表した(署名は11日時点で更新)。7月のレビューと6月18〜19日の欧州理事会を前にしたタイミングである。
署名には、アリアンツ(Allianz SE)、L&Gアセット・マネジメント、シュローダー(Schroders)、英国国教会年金理事会、エルステ・アセット・マネジメント(Erste Asset Management)、ザムペンション(Sampension)、ノルデア・アセット・マネジメント(Nordea Asset Management)などが名を連ねる。ネットゼロ・アセット・オーナー・アライアンス(NZAOA)も支持を表明した。
声明は6つの原則を掲げ、2040年・2050年目標に整合したキャップの長期軌道、価格変動を抑えつつ希少性と流動性を保つ透明な市場ガバナンス、機能するCBAM、ETS収益の産業脱炭素化への充当などを求めた。とりわけ無償割当については、延長ではなく段階的廃止の継続を支持しており、内部文書が示す方向性と対立する。
投資家側が重視するのは予見性である。エルステの責任投資責任者ウォルター・ハタク(Walter Hatak)は、ETSの弱体化が規制の不確実性を高め、電化や低炭素技術にすでに投資してきた企業を不利にすると指摘した。
対立の背景には加盟国の政治的圧力がある。フランスやチェコなどは、消費者の燃料費高騰がグリーン政策への反発を招きうると警告してきた。無償割当の延長は、こうした競争力やカーボンリーケージへの懸念に対応する措置と位置づけられる。
無償割当の延長案と投資家連合の声明は、7月のレビューを前に「競争力」と「価格シグナルの一貫性」という二つの論点を可視化した。前者は産業の国際競争力とカーボンリーケージ対策を、後者は脱炭素投資の予見性を重視する立場である。両者は必ずしも排他的ではなく、無償割当の扱いとCBAMの実効性をどう設計するかが、レビューの帰趨を左右する。
参考:https://www.iigcc.org/media-centre/investors-call-for-robust-and-predictable-eu-ets