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米データセンター向けガス火力74基、想定排出量は豪州1国分に匹敵

2026.07.02 読了 約7分
米データセンター向けガス火力74基、想定排出量は豪州1国分に匹敵
出典:イメージ

米環境NPOのEnvironmental Integrity Project(EIP)は7月1日、AI関連データセンター向けに計画されている天然ガス火力発電所74基が、稼働時に年間6億6,200万トンの温室効果ガスを排出しうるとする報告書「The Power Behind AI」を公表した。

想定排出量の規模比較(年間、温室効果ガス)

計画中のガス火力74基(EIP推計)

6億6,200万トン

豪州(2024年、国全体)

6億5,100万トン

フランス(2024年、国全体)

4億1,700万トン

カリフォルニア州(2023年、全体)

3億9,700万トン

出所:Environmental Integrity Project「The Power Behind AI」(2026年7月)をもとに作成

豪州一国の年間排出量に匹敵する規模であり、自動車・トラック1億4,000万台分の年間走行排出量にも相当するという。

71基が新設、送電網を介さず直接給電

74基のうち71基が新設、3基が既存設備の拡張で、合計143ギガワットの発電容量が計画されている。これらはいずれもデータセンターへ直接送電する「ビハインド・ザ・メーター(behind-the-meter)」方式で計画されており、一般家庭や企業向けの送電網を経由しない。

地域別ではテキサス州32基、オハイオ州10基、ペンシルベニア州6基、ウェストバージニア州とワイオミング州が各4基となっている。

2024年時点でデータセンター向け電力の約40%が天然ガス由来で、風力・太陽光が24%、原子力が20%、石炭が15%を占める。BloombergNEFの2025年12月分析では、データセンターの電力需要は2035年までに106ギガワットに達する可能性があり、これは7カ月前の前回見通しから36%上方修正された数字だという。Global Energy Monitorの分析によれば、米国は2025年にガス火力の開発容量をほぼ3倍の252ギガワットまで拡大し、中国を抜いて世界最大のガス火力開発国になったとしている。

データセンター向け電力の電源構成(2024年)

40%
24%
20%
15%
天然ガス 40%
風力・太陽光 24%
原子力 20%
石炭 15%

出所:Pew Research Center分析(2025年10月)をもとに作成

直接排出という特殊性、スコープ算定への影響

これらのプロジェクトが注目に値するのは、排出規模そのものよりも排出の帰属先が明確である点にある。系統電力の場合、発電構成が地域全体で平準化されるため、特定の需要家への排出の帰属はグリッド排出係数を介した推計にとどまる。一方、ビハインド・ザ・メーター方式の発電設備は特定のデータセンターにのみ電力を供給するため、燃焼由来の排出量がそのまま当該事業者に紐づく。

xAIがメンフィスとサウスヘイブンの拠点で自社保有のガスタービンを稼働させている事例のように、データセンター運営企業自身が発電設備を保有・運転する場合、その燃焼排出はスコープ1排出として計上される。フェルミ・アメリカ(Fermi America)がテキサス州アマリロ近郊で計画するProject Matadorも、単独プロジェクトで年間約4,032万トンの温室効果ガスを排出しうると報告書は推計しており、オハイオ州のPortsmouth Powered Land Projectは約5,339万トン、ウェストバージニア州のMonarch Compute Campus Power Plantは約4,588万トンとされる。いずれもニューヨーク市全体の年間排出量(約4,800万トン)に匹敵するか、それを上回る水準である。

主要プロジェクト別の想定排出量(年間)

Portsmouth Powered Land Project(オハイオ州)

5,339万トン

ニューヨーク市全体(参考、2024年)

4,800万トン

Monarch Compute Campus Power Plant(ウェストバージニア州)

4,588万トン

Fermi America Project Matador(テキサス州)

4,032万トン

出所:Environmental Integrity Project「The Power Behind AI」(2026年7月)をもとに作成。ニューヨーク市の数値はNYC Mayor’s Office of Climate & Environmental Justiceによる。

トランプ政権は2026年3月、データセンター事業者に自前の発電設備建設を促す「Ratepayer Protection Pledge」を打ち出した。拘束力のない任意の枠組みだが、これを機に自社発電を発表する事業者が増えている。大手クラウド事業者の多くはSBTi認証済みの科学的根拠に基づく目標や、再生可能エネルギー調達による排出係数低減を前提としたネットゼロ目標を設定してきた。ビハインド・ザ・メーター型のガス火力が計画通り積み上がれば、この前提となってきた排出係数低減のトレンドとは逆方向の圧力がスコープ1・2排出に加わることになる。

将来的な排出吸収需要への波及

報告書はEIP自身の政策提言として、蓄電池を組み合わせた太陽光・風力への代替を主張しており、オフセットによる埋め合わせではなく発電源そのものの転換を優先課題として位置づけている。この立場は、今回明らかになった排出規模の大きさとも整合的である。Project Matador単独の想定排出量(年間約4,032万トン)は、多くの企業が年間に償却するカーボンクレジット量を大幅に上回る水準であり、仮に複数の大型プロジェクトが計画通り稼働した場合、その残余排出をボランタリーカーボンクレジット市場での調達のみで埋め合わせることは現実的な選択肢とはなりにくい。

なお、Clean Air Actの許可手続きに関して、2026年4月30日時点で対象74基のうち半数が建設許可を未申請の状態にあるとEIPは指摘している。一部の事業者が段階的な許可申請によって「メジャーソース」認定を回避し、公聴会などの審査プロセスを簡略化している事例があるといい、排出量の把握・開示という観点では今後の許可情報の追跡が論点となる。

編集部の視点

AI向け電力を専用のガス火力で賄う動きは、既存のデータセンター拡大トレンドの延長線上にあるが、系統電力とは異なり排出の帰属先が事業者単位で明確になる点は、企業のGHG算定実務にとって独立した論点である。ビハインド・ザ・メーター方式が広がるほど、スコープ1・2排出の押し上げ圧力は希釈されずに顕在化する。

Project Matadorのような単独プロジェクトの排出規模が数千万トン単位に達することを踏まえると、こうした排出増をボランタリーカーボンクレジット市場での調達だけで吸収するのは規模の面で無理がある。データセンター事業者のネットゼロ目標の実現可能性は、オフセット調達の巧拙よりも、発電源そのものを再生可能エネルギーに切り替えられるかどうかに左右される論点として整理できる。

参考:https://environmentalintegrity.org/reports/the-power-behind-ai/

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カーボンクレジット.jp 編集部
カーボンクレジット.jp編集部|2023年末に当時日本初かつ唯一のカーボンクレジット専門情報メディアを立ち上げ。高度な専門性とわかりやすさを追求した翻訳力。