欧州委員会と欧州投資銀行(EIB)は7月2日、EU排出量取引制度(EU ETS)の収益を原資とするModernisation Fund(近代化基金)から25億ユーロ(約4,608億円)を拠出し、11カ国51件のエネルギー関連事業を支援すると発表した。2021年1月の運用開始以来の累計拠出額は232億ユーロ(約4兆2,758億円)に達する。
配分額が最も大きいのはルーマニアの6億3,690万ユーロ(約1,174億円)で、自立型の蓄電池ストレージ施設整備に充てる。次いでハンガリーが5億5,230万ユーロ(約1,018億円)で電力網のデジタル化を進め、チェコは5億1,680万ユーロ(約953億円)を地域熱供給システムの脱炭素化に投じる。残る8カ国への配分は2,020万ユーロから2億3,390万ユーロの幅で、ギリシャの産業設備省エネ化、エストニアのディーゼルバスから電気トロリーバスへの置き換え、クロアチアの地熱地域熱供給など、各国の事情に応じた案件が並ぶ。
Modernisation Fundは、EU ETSの排出枠オークション収入の2〜2.5%を財源とし、2021年から2030年までの時限措置として運用されている。今回の拠出は、欧州委員会が2026年3月に打ち出したETS柔軟化策の一環である300億ユーロ規模の「ETS Investment Booster」や、無償枠ベンチマークの改定作業、7月をめどに取りまとめが進むETS中期見直しと同時並行で実施された。欧州委員会は、送配電網の増強や再生可能エネルギー導入の拡大に加え、化石燃料輸入への依存低減にもつながるとしている。
今回の拠出は、2021年の運用開始から続く定例サイクルの一つであり、単体として市場構造を変える性格のものではない。EU ETS収益循環という既存の仕組みが淡々と機能している事例として捉えるのが妥当だろう。
ただし、タイミングには留意したい。無償枠のベンチマーク改定やETS Investment Boosterなど、Modernisation Fundの原資構造に影響しうる制度変更が中期見直しの一環として同時進行している。今回の定例拠出そのものよりも、この中期見直しの結論が基金の2030年以降の規模を左右する。
参考:https://ec.europa.eu/commission/presscorner/detail/en/ip_26_1501