エクソンモービル(ExxonMobil)は2026年4月、米国テキサス州南東部において新たな大規模炭素回収・貯留(CCS)プロジェクト「サンフラワー・カーボン・ストレージ・プロジェクト(Sunflower Carbon Storage Project)」を推進すると発表した。
規制当局の許認可を前提に、建設着工は最短で2026年内とされている。同プロジェクトは、メキシコ湾岸地域をCCSのグローバルな集積拠点に押し上げる流れを加速させる動きとして位置づけられる。
サンフラワー・プロジェクトは、エクソンモービルの低炭素ソリューション事業部門(Low Carbon Solutions)が主導する。貯留対象エリアは、テキサス州リバティ郡東部およびジェファーソン郡西部にまたがる約25,000エーカー(約10,100ヘクタール)に及ぶ。
CO2の圧入深度は地表から約800メートルから2,400メートル(約0.5〜1.5マイル)に設定され、飲料水を含む地下帯水層のはるか下層に位置する堆積岩層を主要な圧入ゾーンとする。2023年後半に実施された層序評価井の掘削により、深部の多孔質砂岩層がCO2の永続的貯留に適していることが確認済みである。
インフラ面では、既存のエクソンモービルCO2輸送パイプライン網と貯留サイトを接続するため、約11マイル(約18キロメートル)の延伸パイプラインが計画されている。これにより、近隣の産業排出源から圧入サイトまでのCO2輸送が一体運用される見通しだ。
なお、米国環境保護庁(EPA)の記録によれば、サンフラワーでは計4本のClass VI圧入井の掘削が計画されている。
米国ガルフコースト、とりわけテキサス州は、CCS展開の世界的な中心地として急速に存在感を高めている。背景にあるのは、深部塩水帯水層などCO2貯留に適した良好な地質条件、製油所・化学プラント・LNG設備などの産業排出源の集積、既存のパイプラインおよびエネルギー関連インフラの充実という三要素の重なりである。
これらの条件が複数の大規模排出者を単一の貯留ハブに結びつけることを可能にし、CCSの単位コスト低減に資する構造を生んでいる。エクソンモービルによる今回の計画も、こうした地域的な優位性を最大限に活用するアプローチと位置づけられる。
サンフラワー・プロジェクトの実現には、テキサス鉄道委員会(Texas Railroad Commission)によるClass VI地下圧入井許認可の取得が必要となる。EPAは2024年、テキサス州に対しClass VI井に関する州主導の許認可権限(primacy)を付与しており、以降の審査は同州当局が一次的に担う枠組みとなっている。
許認可プロセスでは、地下水への影響評価をはじめ、長期モニタリング計画、漏洩リスク評価、緊急時対応計画など多角的な審査が行われる。一方、近隣のチーク(Cheek)地区の住民からは、圧入井との距離の近さや健康・環境影響に対する懸念が示されており、同社が別途進める「ローズ(Rose)」プロジェクトについても州の事前聴聞手続きが進行中である。
今回のサンフラワー計画は、エクソンモービルのテキサス州におけるCCSポートフォリオの一角を形成する。同社は以下のような関連資産を構築してきた。
同社が2023年11月に完了したデンベリー(Denbury)の総額49億ドル(約7,770億円)の全株式買収は、CCS事業の基盤を一挙に拡充する転換点となった。買収により、ルイジアナ州、テキサス州、ミシシッピ州を中心に全長約1,300マイル(約2,090キロメートル)のCO2パイプライン網と、複数の陸上貯留候補サイトを取得した。
さらに、テキサス州総合土地事務所(Texas General Land Office, GLO)との間で、ジェファーソン郡、チェンバース郡、ガルベストン郡沖の27万1,000エーカー超(約1,100平方キロメートル)のオフショアCO2貯留リース契約を締結しており、これは米国内最大のオフショア炭素隔離リースとされる。西ジェファーソン郡で進められている「ローズ」プロジェクトと合わせ、同社は陸上・海域双方での大規模貯留能力の構築を急いでいる。
サンフラワーのようなハブ型CCSプロジェクトは、単一企業の排出削減にとどまらず、複数の産業排出者に対して貯留サービスを提供する共用インフラとしての役割を果たす。セメント、鉄鋼、化学、製油所といったハード・トゥ・アベイト(hard-to-abate)セクターは、プロセス由来のCO2を既存技術だけでは削減しきれないケースが多く、CCSは現実的な脱炭素経路の中核を占める。
排出源に近接した貯留拠点へのアクセスが確保されることで、CCS導入に伴う輸送コスト・リスクが低下し、産業部門の脱炭素化を促進する効果が期待される。
今回のプロジェクトはCCS(産業排出源からの回収・貯留)であり、大気中からCO2を取り除く炭素除去(CDR)とは明確に区別すべきである。
ボランタリーカーボンクレジット市場において、化石燃料・産業排出源由来のCCSは通常、除去系カーボンクレジットとして認定されない。除去系カーボンクレジットを扱うコアカーボン原則(CCPs)やベラ(Verra)、プロアース、アイソメトリック(Isometric)といった主要な方法論・レジストリの審査基準は、生物起源または直接空気回収(DAC)由来の炭素貯留を対象としており、今回の案件はこれに該当しない可能性が高い。
他方、米国の45Q税額控除(地中永続貯留で1トンあたり85ドル)は産業CCSに適用されるため、エクソンモービルのような事業者は税額控除ベースでの経済性を確保しつつ、産業顧客に対する脱炭素サービスを展開している点に注目すべきだ。
日本の産業界にとっての示唆は二点ある。
第一に、CCSと除去系カーボンクレジットを同列に論じる誤解を避け、Scope1削減手段としてのCCSと、残余排出のオフセット手段としての除去系カーボンクレジットを分けて調達戦略を設計する必要がある。
第二に、日本の二国間クレジット制度(JCM)や国内のCCS事業法下で進むプロジェクトとの比較において、米国ガルフコーストのような産業集積・地質条件・規制枠組みの三位一体がハブ型CCSの経済性を支えているという点は、苫小牧や東新潟などの国内CCS適地戦略を設計する上で重要な参照点となる。