ベラ(Verra)は、VCS 傘下の IFM 方法論を「強化隔離」領域へ拡張する新ドラフト M0274(Methodology for Enhanced Forest Sequestration with Dynamic Baselines using Randomized Control Trials)の公開意見募集を開始した。募集期間は 2026 年 5 月 6 日から 6 月 8 日まで。能動的介入による炭素吸収量増進を対象とし、ランダム化比較試験(RCT)の発想を導入したベースライン設定手法が中核となる。
ドラフトは、菌類接種・競合植生除去・混植といった通常の保全的森林管理を超える能動的介入を対象範囲とする。樹木成長率と生存率の引き上げによって炭素吸収速度を高める介入手法を方法論化するものであり、VCS 標準 v5.0 における強化隔離の定義に沿う。
ドラフトの最大の特徴は、ベースライン設定に RCT の発想を導入した点にある。プロジェクト境界内に介入を行わない対照区を設置し、介入区との直接比較によって炭素ベネフィットを算定する設計をとる。この手法は農学・生態学の野外実験設計に類似し、モデル依存を低減することで気候ベネフィットの因果帰属性と検証可能性を高めることが意図されている。
ドラフトの策定は、ファンガ(Funga)社がパートナーとともに担った。
本ドラフトは方法論的には自然な拡張だが、AFOLU セクターのカーボンクレジット品質論争のなかに置き直すと別の意味合いを帯びる。従来の IFM カーボンクレジットは、モデル型ベースラインへの依存によって過剰発行を招いてきたとの批判が業界内外で蓄積している。
同所対照区の導入は、こうしたモデル型ベースラインの構造的脆弱性に対する直接的な技術回答である。同一プロジェクト内で対照区を確保することで、外生的なベースライン推計の不確実性を方法論レベルで遮断する設計といえる。
一方で、本手法が IFM 方法論の信頼性問題を全面的に解決するわけではない。実験区と対照区の生態学的均質性をいかに担保するか、対照区における自然変動の評価を恣意性なく行えるか、長期にわたる介入効果のモニタリングをどの粒度で要求するかといった技術的課題は残る。RCT 設計はプロジェクト規模の制約と対照区設置コストを伴うため、適用可能なプロジェクト類型を狭める可能性もある。
加えて、本ドラフトの起草にファンガ社が中核的に関与した点について、菌類接種を主要技術とする民間スタートアップが方法論を策定することの中立性に対する留保意見も想定される。方法論が特定技術の経済性を前提に設計されるリスクは、公開意見募集を通じた第三者検証で精査されるべき論点である。
本件は、IFM 方法論の領域を保全・管理改善から能動介入による炭素吸収量増進へと押し広げる業界的な節目に位置付けられる。森林カーボンクレジットの信頼性問題は、削減系・除去系の二項対立ではなく、方法論内部のベースライン構築の堅牢性こそが争点であった。同所対照区の導入は、その争点に対しベラがモデル依存からの脱却という方向で応えた点で、方法論進化の方向性として理にかなう。
ただし本ドラフトは、過去に発行された IFM カーボンクレジットの品質を遡及的に救済するものではない。新旧方法論の整合性と既存 IFM カーボンクレジット市場への波及が伴わなければ、AFOLU セクターのカーボンクレジット信頼性は構造的に再構築されない。
参考: https://verra.org/consultation-methodology-for-enhanced-forest-sequestration/