スコットランドに本拠を置くカーボンクレジット標準のプラン・ビボ(Plan Vivo)は2026年5月18日、草地・放牧地(grassland and rangeland)システムにおけるカーボン算定ツール6件のパブリックコメントを開始した。パブコメ期間は2026年6月15日までで、最終技術審査を担う方法論承認パネルの専門家も併せて募集している。
6件のツールは、いずれも既存の農林業炭素便益評価方法論「PM001 V1.1」のもとで運用される。具体的には、ベースラインおよびプロジェクトのGHG除去量を炭素プール別に推計する「Module PU001 V1.2」内で適用される設計となっており、方法論本体の刷新ではなく、測定対象領域の拡張・精緻化に位置づけられる。
ツールの内訳は、土壌有機炭素(SOC)の経時変化測定、立木・低木の木質バイオマスの炭素フラックス計算、草本・放牧地植生に固定された非木質バイオマスの追跡、枯死木・リターの残存炭素ストック推計、モニタリング対象とすべき炭素プールを選別する重要性試験、そして金銭的インセンティブなしでは炭素吸収が生じなかったことを示すベースラインシナリオ・追加性評価ツールである。すべて初版(v1)として位置づけられ、測定精度・追加性・スコープ画定の3点に焦点を絞っている。
本件は、自然由来カーボンクレジット領域における方法論精緻化の一環として、既存トレンドの延長線上に位置する動きである。土壌炭素や草地系のMRVは測定不確実性が高く、永続性・追加性の論点が繰り返し問われてきた領域であり、ツール群の整備自体は業界全体の方向性と整合する。
ただし、注目すべきはプラン・ビボが本件を通じて示している市場ポジショニングである。
ベラ(Verra)が運営するVCSやゴールドスタンダード(Gold Standard)が大規模・標準化志向で市場シェアを伸ばす一方、プラン・ビボはコミュニティベース・小規模生産者志向という出自を保持してきた。今回拡張対象となる草地・放牧地は、サブサハラ・アフリカや中南米の牧畜コミュニティが主要担い手となる領域であり、技術由来カーボンクレジットや大規模植林(ARR)が手掛けにくいニッチである。同社が農林業方法論の枠内でこの領域に踏み込む構図は、規模追求型の競合との差別化を明確化する戦略と読み取れる。
一方で、コミュニティ志向アプローチに対しては、MRVの厳密性確保が大規模標準と比べて困難であり、ICVCMが進めるコアカーボン原則(CCPs)適合審査でハードルを抱える可能性があるとの指摘もある。今回のツール群がそうした品質懸念にどの程度応えうるかは、パブコメ後の最終版の内容に左右される。
プラン・ビボの今回の動きは、自然由来カーボンクレジット標準が「大規模・標準化」と「小規模・コミュニティ志向」に分化しつつある構図を示す事例として位置づけられる。ICVCM主導の品質ベンチマーク強化が進むなか、コミュニティ志向標準はニッチ領域の方法論深化によって独自価値を維持する戦術を選択している。