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管轄区域型REDD+リスクマッピングが4 カ国拡大、対象 16 管轄区域へ ボランタリー市場の構造的シフトの一事例

2026.05.16 読了 約5分
管轄区域型REDD+リスクマッピングが4 カ国拡大、対象 16 管轄区域へ ボランタリー市場の構造的シフトの一事例
出典:<a href="https://www.linkedin.com/posts/equitable-earth_redd-forestconservation-carbonmarkets-activity-7460310810821619712-jJHM" target="_blank">Equitable</a>

ボランタリーカーボンクレジット市場の方法論認証機関であるイクイタブル・アース(Equitable Earth)が、管轄区域型 REDD+ リスクマッピングの対象国にボリビア、ナイジェリア、ペルー、タンザニアの 4 カ国を追加した。

これにより同社のテレストリアル森林保全方法論(M002)のカバー範囲は、3 大陸 16 管轄区域へと拡大した。リスクマップは 2024-2029 年期間のプロジェクトベースライン配分に用いられる。

機械学習とリモートセンシングを組み合わせた手法により、森林バイオマス損失の確率を地域単位で評価する。これに基づき、ベースラインを管轄区域全体で標準化することで、個別プロジェクトの恣意性とリーケージの捕捉漏れを抑制する設計である。

M002 が解こうとする「ベースライン誠実性」の構造問題

管轄区域型 REDD+ が個別プロジェクト型に対して持つ技術的優位は、リーケージとベースライン設定の2点に集中する。

プロジェクト単位のアプローチでは、保全対象地内で森林破壊圧力を抑え込んでも、その圧力が境界外へ移転して隣接地で森林損失が発生する「アクティビティシフティング」が構造的に発生する。プロジェクト境界の内側でしかモニタリングが行われない以上、外部への漏出は方法論上の盲点となりやすい。

加えて、ベースライン(プロジェクトがなかった場合に推定される森林損失量)の設定は、従来プロジェクト開発者が独自シナリオで構築する余地が大きく、過剰発行の温床と指摘されてきた。

管轄区域全体で統一されたリスクマップを参照点とすれば、開発者ごとのシナリオ差異は縮減され、リーケージは管轄区域内の他地域での損失として捕捉される。M002 が「アクティビティシフティング」の名のもとに回避系カーボンクレジットの誠実性を高めようとする狙いは、この構造に対応する。

ボランタリー市場で進行する管轄区域シフトの一事例

もっとも、本件は単発の革新というより、ボランタリー市場全体で進行する管轄区域型シフトの一事例として位置づけるのが妥当である。

ICVCM のコアカーボン原則(CCPs)は、REDD+ カテゴリの評価において管轄区域型アプローチを事実上の基準とする方向性を示してきた。ARTの TREES は管轄区域型 REDD+ の代表的標準として先行し、すでに複数の主権国家・州政府が登録に動いている。Verra も VCS の枠組み下で管轄区域型統合プロジェクト(JNR)を整備してきた経緯がある。

業界分析によれば、買い手側の需要も「個別プロジェクト型のディスカウントされた価格」から「管轄区域型のプレミアム価格」へと選好をシフトさせつつある。

イクイタブル・アースの今回の拡大は、こうした潮流の中で同社が管轄区域カバレッジを面で押さえる動きと読める。ブラジル、コロンビア、コンゴ民主共和国における 400 万ヘクタール超の認証パイプラインに、リスク圧力の高いラテンアメリカ・アフリカの主要森林国を追加することで、新興認証機関としてのポジショニングを強化する戦略である。

新興認証機関の差別化と既存スタンダードとの競合構図

ボランタリーカーボンクレジット市場では、認証機関と方法論の選択が買い手のリスク管理上の重要変数となっている。

既存大手スタンダードがレガシークレジットの過剰発行問題で信頼性論争にさらされる一方、新興機関は「カーボン会計の内製化による利益相反の排除」「コミュニティ主導の森林保全への直接資金誘導」を差別化軸に掲げる。イクイタブル・アースの「2030 年までに自然界の1%を保護・再生する」というミッションも、こうしたナラティブの一部である。

ただし、新興認証機関であるがゆえに、レジストリとしての歴史的トラックレコード、発行カーボンクレジットの流通実績、買い手側のデューデリジェンス受容度は既存大手に劣る。買い手にとっては、技術的に洗練された方法論を採用するか、流動性とトラックレコードを優先するかのトレードオフが残る。

残された論点、管轄区域型が解決しないもの

管轄区域型アプローチが REDD+ の信頼性問題をすべて解決するわけではない。ホスト国のカーボンライツの法的整備、先住民・地域コミュニティへの便益分配、パリ協定6条との整合性(コリ調整の有無)、永続性の担保といった論点は、方法論レベルではなく制度・ガバナンスレベルの課題として残る。

もっとも、回避系カーボンクレジットそのものが「排出が継続する事業活動を相殺する権利」を発行するという根本構造に起因する批判があり、除去系との品質格差は引き続き論点として残る。

リスクマッピングの精緻化は、こうした論点群のうち定量化可能な技術的部分の改善であり、REDD+ 全体の正当性回復の必要条件ではあっても十分条件ではない。

ボランタリーカーボンクレジット市場における管轄区域型 REDD+ の台頭は、構造転換というより、信頼性危機への漸進的な制度対応として理解すべき潮流である。イクイタブル・アースの 4 カ国追加は、その潮流の中で新興認証機関がカバレッジ面で既存大手に追随する一手であり、市場全体の方向性を変えるマイルストーンではない。

評価軸は方法論の技術的洗練度にとどまらず、レジストリの運営実績、買い手側の受容、ホスト国の制度整備という複合変数に分散している。新興認証機関の方法論を採用する買い手にとっては、技術的優位とトラックレコード劣位のトレードオフを各案件ごとに判断する局面が続く。

参考:https://www.linkedin.com/posts/equitable-earth_redd-forestconservation-carbonmarkets-activity-7460310810821619712-jJHM

関連タグ REDD+ 森林
カーボンクレジット.jp 編集部
カーボンクレジット.jp編集部|2023年末に当時日本初かつ唯一のカーボンクレジット専門情報メディアを立ち上げ。高度な専門性とわかりやすさを追求した翻訳力。