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CAD Trust新CEOにUNFCCC・ベラ出身のハワード氏、パリ協定6条運用期のレジストリ相互運用基盤を率いる

2026.05.20 更新 2026.05.21 読了 約4分
CAD Trust新CEOにUNFCCC・ベラ出身のハワード氏、パリ協定6条運用期のレジストリ相互運用基盤を率いる

カーボンクレジットの主要レジストリ間でデータを連携・調和させる非営利グローバルインフラ、気候行動データトラスト(Climate Action Data Trust、以下CAD Trust)は、新最高経営責任者(CEO)にアンドリュー・ハワード(Andrew Howard)氏を起用したと発表した。ハワード氏は国連気候変動枠組条約(UNFCCC)事務局でカーボンクレジット市場の戦略・政策立案を10年以上率い、クリーン開発メカニズム(CDM)レジストリシステムを統括、パリ協定6条の初期国際交渉の中核を担った人物である。直近はボランタリーカーボンクレジット最大の発行体であるベラ(Verra)で最高戦略・政策責任者を務めていた。

前任の暫定CEOフェデリコ・ディ・クレディコ(Federico Di Credico)氏からの交代となる。CAD Trustは、初代エグゼクティブディレクターのユヴァラジ・ディネシュ・バブ・ニティヤナンダム(Yuvaraj Dinesh Babu Nithyanandam)氏が2024年末に退任して以降、ディ・クレディコ氏が暫定的に組織を率いてきた。

CAD Trustはシンガポールを拠点とし、世界銀行の支援を受ける非営利のオープンソース・メタデータ基盤である。コンプライアンスカーボンクレジット市場とボランタリーカーボンクレジット市場の主要レジストリからデータを連携・集約・調和させ、ブロックチェーン技術を用いてカーボンクレジットの単一かつ改ざん不能な参照源を構築することを目的とする。2025年7月時点でレインボー(Rainbow、旧Riverse)登録簿が11番目の接続レジストリとして加わり、世界のカーボンクレジット発行量の約9割をカバーするに至っている。

ハワード氏の起用は、組織人事を超えた象徴性を帯びる。UNFCCC事務局でCDMレジストリ運営と6条交渉の双方を主導した経験と、世界最大のボランタリー基準であるベラでの戦略責任者経験を併せ持つ人材は極めて稀である。規制市場側のアーキテクチャ構築経験と、自主市場側の発行・品質管理の運用知見を同一人物が保有するという人事は、両市場の制度的収斂が現実の運営課題として浮上しつつあることを示唆する。

背景には、パリ協定6条の運用本格化がある。各国が国際的に移転される緩和成果(Internationally Transferred Mitigation Outcomes、ITMO)の取引を本格化させるなか、ホスト国レジストリ、企業バイヤー、自主基準、コンプライアンス制度のそれぞれが保有するクレジットデータをどう接続し、二重計上を防止するかは、6条運用の実効性を左右する論点となる。CAD Trustが標榜する「単一の真実の参照源」は、この課題に対する技術的応答である。

もっとも、ブロックチェーン基盤による二重計上防止には実装上の課題が残る。第一に、CAD Trustが扱うのはメタデータ層であり、各レジストリ側のデータ標準化と更新規律に依存する点である。データモデルv1.8からv2.0への移行が進行中とされるが、接続レジストリ間でのデータ粒度・更新頻度の不揃いが解消されない限り、リアルタイムでの二重計上検知には限界が伴う。第二に、ホスト国主権との整合性である。6条2項のコリ調整(相当調整)はホスト国の自国NDC計上との整合を求めるが、ホスト国レジストリがCAD Trustに接続するか否か、接続する場合のデータ開示範囲は各国の判断に委ねられる。技術的なオープンソース基盤と、各国の主権的判断との緊張関係は、インフラの実効性を制約する構造的論点として残る。

CAD Trustのガバナンス基盤にも留意すべき点がある。世界銀行のバックアップとシンガポール拠点という組織構造は、特定国家のレジストリ運営から独立した中立性を志向するものと位置づけられる。ハワード氏のUNFCCC出身という経歴は、この中立性志向と整合する一方、ベラでの直近職歴は、自主市場側の発行体との距離感をどう取るかという論点を残す。

本人事は、パリ協定6条運用期における市場インフラの主導権をめぐる構造的な布石として位置づけられる。UNFCCC・ベラ双方の中枢を経験した人材の起用は、レジストリ間相互運用性が今後5年の市場成熟を左右する中核論点であることの認識を反映する。

CAD Trustのメタデータ層は、ホスト国レジストリの接続意思と各国のデータ主権判断に依存する構造であり、技術基盤の存在そのものが二重計上を防止するわけではない。実効性は、6条2項のコリ調整運用と接続レジストリ側のデータ規律によって決まる。

日系企業がパリ協定6条由来のクレジットを調達・活用する局面では、ホスト国レジストリとCAD Trustの接続有無、データモデルv2.0準拠状況の確認が、調達クレジットの国際的整合性を担保する実務的判断軸となる。

参考:https://climateactiondata.org/rainbow-connects-to-the-climate-action-data-trust/

カーボンクレジット.jp 編集部
カーボンクレジット.jp編集部|2023年末に当時日本初かつ唯一のカーボンクレジット専門情報メディアを立ち上げ。高度な専門性とわかりやすさを追求した翻訳力。