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ニュージーランド政府、気候訴訟を遡及的に封じる法改正へ 国際NGO100超が撤回要求

2026.05.20 読了 約4分
ニュージーランド政府、気候訴訟を遡及的に封じる法改正へ 国際NGO100超が撤回要求
出典:イメージ

ニュージーランド政府は2026年5月12日、温室効果ガス排出を理由とする企業への民事不法行為訴訟を遡及的・将来的に禁止する気候変動対応法(Climate Change Response Act 2002)の改正方針を発表した。ポール・ゴールドスミス(Paul Goldsmith)司法相が公表したもので、現在係争中の訴訟および将来提起される訴訟の双方に適用される。

法改正の直接的な標的とされているのが、マオリ系活動家マイク・スミス(Mike Smith)氏が乳業大手フォンテラ(Fonterra)を含む同国の主要排出企業6社に対して提起した訴訟である。被告6社の排出量はニュージーランド全体の約3分の1を占めるとされる。同訴訟は2024年に最高裁が全員一致で本案審理への移行を認め、2027年の高等裁判所での審理開始が予定されていた。

ゴールドスミス司法相は、本件訴訟が「ビジネス信頼性と投資の不確実性を生んでいる」とし、「気候変動への対応は議会が制定した枠組みのもとで政府が国レベルで管理すべきであり、裁判所での個別訴訟によるべきではない」と説明した。同国では既に気候変動対応法とニュージーランドETSが法的枠組みとして機能しており、新たな責任追及の経路が並立することへの懸念を示した形である。

法改正によりETS下の事業者の義務は変更されず、また気候相サイモン・ワッツ(Simon Watts)に対して環境法イニシアチブ(ELI)と気候行動弁護士団(Lawyers for Climate Action NZ)が共同提起している別件訴訟も影響を受けないとされる。

国際NGO連合による撤回要求

発表を受け、国際的なNGOおよび学識者100超が連名で改正撤回を求める書簡を発出した。気候訴訟支援を専門とするクライアントアース(ClientEarth)の最高経営責任者ローラ・クラーク(Laura Clarke)氏は、「ニュージーランドは民主的制度と法の支配、クリーンでグリーンなイメージで世界的に尊敬されてきたが、今回の改正案はその両方を毀損するリスクがある」と批判した。

国内でも反発は強い。グリーンピース・ニュージーランドの執行役員ラッセル・ノーマン(Russel Norman)氏は「権力の乱用」と非難し、気候行動弁護士団代表のジェニー・クーパー(Jenny Cooper KC)氏は「最高裁の全員一致判決を立法で覆そうとする反射的反応」と評した。スミス氏自身も「議会が係争中の訴訟をキャンセルできるなら、政治的に都合が悪くなった瞬間にいかなる法的請求も保全されなくなる」と述べ、民主主義の根幹に対する侵害との認識を示した。

クーパー氏は、ゴールドスミス司法相の「気候変動対応法とETSが既存の枠組み」とする主張に対し、両法は気候被害に対する補償メカニズムを一切規定しておらず、唯一可能性のあった救済経路を立法的に遮断するものだと反論している。

グローバル気候訴訟トレンドへの逆行

本件改正は、国際司法裁判所(ICJ)が国家の気候保護義務に関する勧告的意見を公表した直後のタイミングで進められている。ICJ意見は各国に対し気候システムへの危害から保護する法的義務を確立する内容であり、欧州ではオランダのウルゲンダ(Urgenda)判決以降、気候訴訟が制度的な責任追及ルートとして定着しつつある。

ニュージーランドの法改正は、こうしたグローバルな潮流と明確に逆行する立法事例となる。各国政府が国内の気候訴訟リスクを立法で遮断する前例として参照される可能性があり、市民社会による司法経由の気候ガバナンスに対する制度的圧力となりうる。一方で、気候政策の主導権を司法から議会に取り戻すべきだとする見方や、国別の事情に応じた制度設計を尊重すべきだとする意見も一部に存在する。

連立政権は次期総選挙前の法案成立を目指している。

本件で注目すべきは、国境を越えたNGO連合が単一国の立法プロセスに対して即座に組織的アドボカシーを展開した事実である。

クライアントアースを中心とする国際NGOネットワークは、気候訴訟支援・法的助言・連名書簡といった手段を体系化しており、各国の気候法制の後退に対するグローバルな監視機構として機能し始めている。

日本企業にとっては、自社の気候戦略・カーボンクレジット調達方針が、こうした越境型NGOアドボカシーの評価対象となる構造が既に成立している点を認識する必要がある。気候訴訟リスクは個別国の法廷リスクではなく、国際的なレピュテーション圧力と連動した複合リスクとして再定義されつつある。

参考:https://www.facebook.com/ClientEarth/posts/new-zealand-is-planning-to-change-its-law-to-limit-climate-lawsuitsnew-zealands-/1371952331633606/

カーボンクレジット.jp 編集部
カーボンクレジット.jp編集部|2023年末に当時日本初かつ唯一のカーボンクレジット専門情報メディアを立ち上げ。高度な専門性とわかりやすさを追求した翻訳力。