ペルー環境省は2026年2月26日、スイス大使館との二国間会合において、農村向け改良クックストーブ普及プログラム「トゥキ・ワシ(Tuki Wasi)」をパリ協定6条の枠組みにおけるペルー初の正式プロジェクトとして承認した。
同プロジェクトは2030年までに最大726,000トンのCO2e削減を目指す。
トゥキ・ワシは、カハマルカ(Cajamarca)、ワヌコ(Huánuco)、ラ・リベルタ(La Libertad)、ランバイエケ(Lambayeque)、ピウラ(Piura)の5州にまたがるアンデス農村地帯において、6万台の改良型クックストーブを農村世帯に設置する大規模プログラムである。
従来の開放型かまどに代わる改良型クックストーブの導入により、以下の効果が期待される。
今回の承認は、ペルー環境大臣ネリー・パレデス・デル・カスティジョ(Nelly Paredes del Castillo)とスイス大使ポール・ガルニエ(Paul Garnier)による二国間会合で正式に確認された。
パリ協定6条2項は、締約国間の自発的な協力によって削減実績を移転する国際排出量取引の枠組みを定めており、トゥキ・ワシはこのメカニズムを活用したペルー初の事例となる。生成されるカーボンクレジットはITMO(Internationally Transferred Mitigation Outcome)として計上される見通しで、スイスが自国の気候目標達成に活用することが想定される。
パレデス大臣は承認にあたり「ペルーはカーボンクレジット市場が国民にとって具体的な成果をもたらし得ることを実証しつつある。この初プロジェクトは排出量を削減するだけでなく、アンデス農村に暮らす数千の家族の生活の質を向上させる」と述べた。
クックストーブは、途上国の農村部における回避系カーボンクレジットの代表的な手法として長年活用されてきた。従来のかまどと比較して燃焼効率が高く、薪の消費量と不完全燃焼由来のブラックカーボン排出を同時に抑制できるため、ゴールドスタンダード(Gold Standard)やベラ(Verra)のVCS方法論のもとで多数のカーボンクレジットが発行されてきた実績がある。
ただし、クックストーブ由来のカーボンクレジットは、実際の使用状況や追加性の測定が難しいとして国際社会から厳しい目が向けられてきた分野でもある。今回のトゥキ・ワシがパリ協定6条の政府間枠組みのもとで設計・承認されている点は、従来のボランタリーカーボンクレジット市場における民間主導型プロジェクトとは異なる信頼性の担保を意図していると見られる。
ペルー環境省は同日、パレデス大臣の署名による「機関誠実性コミットメント(Compromiso de Integridad Institucional)」を公表した。同文書は、透明性・倫理的リーダーシップ・汚職防止を柱とする公的誠実性モデルへの取り組みを内外に宣言するものであり、カーボンクレジット市場の健全な運営にも直結するガバナンス基盤の強化姿勢を示している。
二国間クレジット制度(JCM)を通じて30カ国以上と協定を締結している日本にとって、ペルーのパリ協定6条2項活用事例は参照価値が高い。
特にクックストーブ案件は「削減量の定量化が難しい民生分野」として測定・報告・検証(MRV)設計が問題となっており、トゥキ・ワシの政府間スキームによる品質担保の手法は今後の方法論整備に向けた先行事例として注視すべきだろう。
スイスのようにITMOを自国目標に算入する戦略は、海外クレジット調達に積極的な日本企業のスキーム設計にも示唆を与える。