本文へスキップ
最新ニュース
海外ニュース

自然由来CDRに5億ドル、ビッグテックが調達確約 VCM成熟と「技術一辺倒」からの揺り戻し

2026.05.09 読了 約5分
自然由来CDRに5億ドル、ビッグテックが調達確約 VCM成熟と「技術一辺倒」からの揺り戻し
出典:イメージ

イギリスの再生可能エネルギー投資大手オクトパス・エナジー・ジェネレーション(Octopus Energy Generation)は、米クリーンテック企業リビング・カーボン(Living Carbon)の植林・再植林プロジェクトに5億ドル(約785億円)を投じると発表した。同社はあわせてリビング・カーボン本体にも約1,300万ドル(約20億円)を出資する。プロジェクトでは今後40年間で最大5,000万トンのCO2除去を見込む。

オフテイク先には、ハイクオリティ自然由来カーボンクレジットの共同調達枠組みであるシンバイオシス・コアリション(Symbiosis Coalition)の主要メンバー、グーグル(Google)、メタ(Meta)、マッキンゼー(McKinsey)が名を連ねた。

プロジェクトの概要

リビング・カーボンは、米国全土で劣化した放棄鉱山跡地や耕作放棄地を再森林化する事業を展開する。

次世代の衛星画像と気象データを組み合わせ、生態系として停滞している土地のうち再森林化適地を特定し、CO2吸収源へ転換する。同社によれば、米国内の劣化地は1億3,000万エーカーに及び、その面積はカリフォルニア州を上回る。とりわけアパラチア中部に集中する放棄鉱山跡地160万エーカーと、耕作放棄地約3,000万エーカーに大きな再生余地があるとする。

オクトパスはこの投資により、2030年までに米クリーンエネルギー分野へ20億ドル(約3,140億円)を振り向ける目標に近づく。直近では自然由来カーボンクレジットの劣化草地修復案件を手がけるカルティーボ(Cultivo)への投資も累計1億ドル(約157億円)に拡大している。

オクトパス・エナジー・ジェネレーションのゾイサ・ノースボンド(Zoisa North-Bond)CEOは「業界をリードする企業や巨大IT企業がこれらのプロジェクトを支持していることは、炭素除去市場が拡大段階に入ったことを示す強いシグナルだ」と述べた。

制度資本の流入が示すもの

本件で注目すべきは、規模そのものよりも資金の性格である。

これまで自然由来カーボンクレジットの大型案件は、コーポレートPPA型のオフテイク、もしくは事業者の自己資金による開発が中心だった。今回のオクトパス案件は、再エネファンド運用主体が機関投資家として植林CDRに5億ドル単位の資金を投入する構造であり、自然由来CDRがプロジェクトファイナンスの対象資産として扱われ始めた兆候と読み取れる。

リビング・カーボンの創業者でCEOを務めるマディ・ホール(Maddie Hall)は「これは事業の初期実装段階から、機関投資家資本による長期かつ大規模な除去型カーボンクレジット供給への移行を意味する」と説明している。

ビッグテックの調達ポートフォリオに変化

ここ数年、ビッグテックの炭素除去調達は、直接空気回収(DAC)やバイオ炭などの技術由来CDRに関心が集まっていた。耐久性が高く、MRVの精度が確保しやすいという利点が評価されてきたためである。

一方で本件は、グーグル、メタ、マッキンゼーがアパラチアでの再森林化という自然由来案件に長期オフテイクを確約した点で、調達戦略の重心が技術由来一辺倒から自然由来も含めたポートフォリオへ揺り戻していることを示唆する。技術由来CDRの単価が依然高止まりするなか、規模と単価のバランスを取るうえで、ハイクオリティな自然由来カーボンクレジットの再評価が進んでいるとみられる。

シンバイオシス・コアリションのジュリア・ストロング(Julia Strong)事務局長は、リビング・カーボンの取り組みについて「プロジェクト設計の厳格性と、地域コミュニティ・生態系・経済の実情に即した拡張可能なアプローチに優れている」と評価した。

残る論点

もっとも、自然由来CDRに対する懐疑的な視線が消えたわけではない。

永続性のリスク、火災、病害、土地利用転換による喪失は技術由来除去にはない構造的弱点であり、40年で5,000万トンという除去量の達成可能性については、長期モニタリングと再損失時の補填メカニズムの実効性が問われる。リビング・カーボン自身、過去には光合成効率を高めた遺伝子組換樹木を訴求していた経緯があり、自然由来であっても「自然らしさ」の解釈には議論の余地が残る。

しかし、オフテイク側にビッグテックとマッキンゼーが揃い、ハイクオリティ自然由来カーボンクレジットの需給シグナルとして機能している事実は、市場が自浄を経て次の段階に入りつつあることを示している。

日本市場への示唆

本件の本質は、ビッグテックの調達戦略が「技術由来CDR一辺倒」から脱し、自然由来とのバランスを取り始めたシグナルにある。技術由来CDRは耐久性で優位だが、価格と規模で当面ボトルネックを抱える。自然由来は永続性の課題を残しつつも、ハイクオリティ案件への機関投資家マネー流入はVCM成熟の証左と見るべきである。日本企業にとっては、技術一辺倒・自然一辺倒のいずれでもなく、ポートフォリオを構築する視点が問われる。

参考:https://octopus.energy/press/more-news-press-releases/octopus-energy-generation-to-invest-500-million-to-remove-polluting-co-from-the-atmosphere/

関連タグ 森林
カーボンクレジット.jp 編集部
カーボンクレジット.jp編集部|2023年末に当時日本初かつ唯一のカーボンクレジット専門情報メディアを立ち上げ。高度な専門性とわかりやすさを追求した翻訳力。