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米CAR、18年ぶりのレジストリ刷新へ パリ協定6条運用本格化が迫るインフラ世代交代

2026.05.20 更新 2026.05.21 読了 約4分
米CAR、18年ぶりのレジストリ刷新へ パリ協定6条運用本格化が迫るインフラ世代交代
出典:イメージ

米国の主要カーボンクレジット標準機関であるクライメート・アクション・リザーブ(Climate Action Reserve、CAR)は2026年5月15日、次世代レジストリ・プラットフォーム構築の長期パートナー選定プロセスを開始した。EOI(提案意向表明)の締切は6月8日、RFP(提案依頼)を経て2026年末までに正式選定する2段階方式である。

CARは2008年以降、Xpansiv/APXを唯一のレジストリパートナーとしてきた。同社も次期パートナー候補として応募可能とされているが、18年続いた単独委託体制が競争入札に切り替わること自体が、レジストリ事業の競争環境が転換期に入ったことを示唆する。CARはこれまでに982件のプロジェクトを登録し、2億5,900万トン超のクレジットを発行している。

本件単独であれば既存システムの老朽化に伴う通常の更改にも見えるが、前日の5月14日にはゴールドスタンダード(Gold Standard)が技術パートナーのトロビオ(Trovio)と組んで次世代レジストリを発表しており、主要標準機関の連続発表は偶然では片付けられない。

背景にあるのは、レジストリに求められる機能要件の質的変化である。

CARが示した技術要件は、従来のクレジット発行・移転・無効化を記録する電子簿という枠組みを大きく超える。具体的には、複数のクレジット種別(Climate Reserve Tonnes(CRTs)、Registry Offset Credits(ROCs)等)への対応、APIによる外部システムとの相互運用性、KYCおよびAMLの組み込み型スクリーニング、不変監査証跡、災害復旧フレームワーク、そしてパリ協定6条・CORSIA・dMRVへの整合性確保が並ぶ。

これらは単なる機能追加ではなく、レジストリの性格そのものの再定義である。

第一に、メタレジストリと相互運用性への対応である。CARは要件文書でメタレジストリとの統合を明記しており、ゴールドスタンダードの同時期発表と合わせて読むと、各標準機関が個別に閉じた台帳を運営する従来モデルから、相互接続を前提とした分散型インフラへの移行が進行していることが分かる。標準機関ごとにクレジットが分断され、二重計上リスクが構造的に残存してきた問題に対し、技術側からの解が同時並行で動き出した形である。

第二に、パリ協定6条の本格運用に耐えるインフラ要件である。CARは「Article 6、CORSIA、各国コンプライアンス、dMRVへの整合性に向けた能動的な支援」をパートナーに求めている。6条2項のITMO(国際的に移転される緩和成果)追跡、6条4項のメカニズム運営、ホスト国による相応の調整(コリスポンディング・アジャストメント)の検証——これらは単一機関のレジストリだけでは完結せず、国別登録簿、国連登録簿、各標準機関レジストリの間で整合的にデータが流れる必要がある。レジストリ刷新は、6条運用本格化に向けた制度的準備の一環として位置づけられる。

第三に、レジストリの金融インフラ化である。KYC・AMLの組み込み、不変監査証跡、外部の規制・金融システムとの接続性が要件として明示されたことは、レジストリが取引・決済インフラとして機能することを前提に設計し直されていることを意味する。カーボンクレジットが金融商品としての性質を強める中、レジストリは発行台帳から市場インフラへと位置づけが変わりつつある。

一方で、CARが要件に挙げた「非営利の運営制約に比例した費用構造」と、要求される技術水準の高度化との間には緊張関係が残る。非営利標準機関が市場の高度化要求に追随するための財務的持続可能性は、本件選定の隠れた論点として残存する。

レジストリの世代交代は、カーボンクレジット市場が制度面・技術面・金融面の三方向から同時に成熟段階に入った局面の表出として位置づけられる。とりわけ主要標準機関の連続発表は、パリ協定6条運用とdMRV標準化という外部要請に対し、レジストリ基盤が個別最適から相互運用前提へとアーキテクチャを転換する局面を示している。

日系の制度運営機関や事業者にとっては、J-クレジットJCM、GX-ETSの各レジストリが今後どの程度まで国際的なメタレジストリ構想と接続可能なアーキテクチャを採るかが、日本発カーボンクレジットの国際流動性を左右する論点となる。

参考:https://climateactionreserve.org/blog/2026/05/15/eoi-registry/

カーボンクレジット.jp 編集部
カーボンクレジット.jp編集部|2023年末に当時日本初かつ唯一のカーボンクレジット専門情報メディアを立ち上げ。高度な専門性とわかりやすさを追求した翻訳力。