2026年3月、カリフォルニア州下院の民主党議員15名が、カリフォルニア大気資源局(California Air Resources Board、以下CARB)に対し、州の排出量取引制度(ETS)であるキャップ&インベスト(旧キャップ&トレード)制度の改正案を再検討するよう公式書簡で要請した。
注目すべきは、書簡に署名した全15名が、わずか1年前にこの制度を2045年まで延長する権限をCARBに付与した州法(下院法案1207号、Assembly Bill 1207)に賛成票を投じていた点である。
CARBは2026年1月13日、キャップ&インベスト制度の改正草案を公表した。同制度は13年間にわたり運用され、コンプライアンス率はほぼ100%を維持している。これまでに約340億ドル(約5兆4,000億円)の気候投資資金を創出し、50万件超のプロジェクトを支援、3万人の雇用を生み出してきた。投資額の70%以上が低所得コミュニティや不利な立場にある地域に配分されている。
改正案の主要ポイントは以下の通りである。
書簡を主導したのは、下院多数党リーダーのセシリア・アギアール=カリー(Cecilia Aguiar-Curry)議員(民主党)らである。議員らは、CARBの改正案が燃料・エネルギーコストをさらに押し上げ、すでに全米最高水準にあるカリフォルニア州のエネルギー価格を悪化させると懸念を表明した。
具体的な論点は以下の通りである。
一方で、環境防衛基金(Environmental Defense Fund)を含む環境団体の連合は、CARBの改正案はむしろ十分に野心的ではないと批判している。環境団体側は、2045年カーボンニュートラル達成に向けた短期的な排出削減ペースが不足しているとの立場である。
CARBは改正案について、20年間の遵守コストを約1,240億ドル(約19兆7,000億円)と試算する一方、健康改善を含む州全体の便益を約1,807億ドル(約28兆8,000億円)、気候被害の世界的回避額を最大4,850億ドル(約77兆2,000億円)と推計している。
パブリックコメント期間は2026年1月23日から3月9日まで実施され、理事会での採決は2026年第2四半期に予定されている。施行日は2026年9月1日を目指している。
本件は、排出量取引制度(ETS)の制度設計における排出枠の供給量管理と経済的影響のバランスという普遍的課題を鮮明に示している。
日本のGX-ETSフェーズ2においても、排出枠の段階的縮小ペースと産業競争力への影響は避けて通れない論点である。カリフォルニア州の経験は、制度の野心度を引き上げる際に発生するカーボンリーケージリスク(製油所の州外・国外移転)と、エネルギー安全保障上の脆弱性を如実に物語っている。
国内精製事業者、電力事業者にとって、排出枠の無償配分から有償化への移行速度は経営戦略の根幹に関わる。また、AB 1207が炭素除去(CDR)を含む新規オフセットプロトコルの検討をCARBに求めた点は、コンプライアンス市場におけるCDRクレジットの位置づけを巡る国際的議論の先行事例として注目に値する。