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カリフォルニア州、排出量取引制度の上限引き締めとMDI新設を可決

2026.06.01 読了 約5分
カリフォルニア州、排出量取引制度の上限引き締めとMDI新設を可決
出典:イメージ

カリフォルニア州大気資源局(California Air Resources Board、CARB)は5月29日、州の排出量取引制度であるキャップアンドインベスト制度(旧キャップアンドトレード)の大型改定を可決した。2025年に成立したAB 1207による2045年までの制度延長を受けた更新で、9月1日の施行を予定する。

改定の柱は、2027〜2030年に排出枠1億1,800万トン分を上限予算から削減し、今後10年間で年11%、2031〜2045年は平均7%の上限低減を実現する点にある。同時に産業界向けの救済策と家庭の負担軽減策を盛り込み、環境目標と当面の経済・電力料金への配慮を両立させる構図となった。

上限引き締めを相殺しうるMDIの新設

今回の改定で最大の論点となったのが、製造業脱炭素インセンティブ(Manufacturing Decarbonization Incentive、MDI)の創設である。MDIは上限の外側に最大約1億1,830万トン分の排出枠プールを新設し、産業施設や製油所が承認済みの排出削減プロジェクトを実施した場合に限り、これを稼得型で受け取れる仕組みである。CARBはMDIの規模を40億ドル(約6,360億円)に倍増したと説明している。

問題は、この規模が上限から削減される排出枠とほぼ同量である点だ。

環境防衛基金(Environmental Defense Fund、EDF)は、一方で1億1,830万トンを削減し他方で同量を別枠で創設すれば、上限の引き締め効果が実質的に相殺されると批判している。当初は削減予定だった排出枠を産業インセンティブに転用した形であり、上限の整合性をめぐる対立の中心となった。

CARBは、MDIをカーボンリーケージ対策と位置づける。2025年にはフィリップス66(Phillips 66)のロサンゼルス製油所が閉鎖し、バレロ(Valero)もベニシア製油所の閉鎖を表明するなど、州内では排出規制下にある産業の州外流出が現実化している。CARBのローレン・サンチェス委員長は、気候政策が逆風にさらされるなかで一貫した投資シグナルを世界に示す必要があると述べ、改定の意義を強調した。

なお、CARBはMDIの排出枠発行を当面停止し、公開ワークショップと影響評価を経たうえで申請受付・発行に進む方針も併せて決定した。

価格シグナルは発行ペース次第

制度全体の価格インパクトは一方向に定まらない。表面的には大幅な上限引き締めだが、MDIによる上限外プールと産業向け無償割当の拡大、さらに家庭向けの100億ドル(約1兆5,900億円)規模の電気料金クレジットや8億ドル(約1,272億円)のコンプライアンス支援が、需給の引き締まりを和らげる方向に働く。

カリフォルニア州排出枠(CCA)の価格は、2024年2月に1トンあたり41.76ドル(約6,640円)の高値をつけた後、低下傾向が続いている。直近のオークションでも下落基調が確認されており、今回の改定がこの流れを反転させるかは、MDI枠の発行ペースと産業向け無償割当の運用次第となる。

業界分析によれば、産業施設と製油所は最大約35億ドル(約5,565億円)相当の無償割当を、削減プロジェクトの実施を条件に稼得できる。供給の引き締めと緩和が同時に組み込まれた設計であり、市場が織り込む方向は当面読みにくい。

評価は産業界・環境団体で二分

改定への評価は割れた。環境団体は、排出大手への大量の無償割当が排出源での削減インセンティブを損ない、温室効果ガス削減基金(GGRF)の歳入を圧迫すると強く反発した。

一方、産業界の反応は一様ではない。西部諸州石油協会(Western States Petroleum Association、WSPA)は、一部の救済策を評価しつつも、2030年以降の長期的な投資の確実性が欠けると指摘した。コンプライアンス上の逼迫が燃料コスト上昇や石油輸入依存を招くとの懸念も示された。

CARBは、これらの妥協がカーボンリーケージ防止に不可欠であり、ネットゼロへの移行期に主要製造業の州外流出を避けるための措置だと正当化している。

また、AB 1207とともに成立したSB 840に基づき、CARBは今夏、コンプライアンスオフセットのプロトコル更新に向けたワークショップを開催する。

編集部の視点

今回の改定は、2045年までの制度延長を法的拘束力のある上限低減に落とし込んだ点で、規制市場の引き締め局面への移行として位置づけられる。ただし、その引き締めはMDIによって条件付きで相殺される構造をあわせ持つ。

制度設計上の核心は、削減した排出枠とほぼ同量を上限外で稼得型に再配分するMDIの是非にある。プロジェクト実施を条件とする点で従来の無償割当とは性質を異にするが、上限の総量規制という制度の根幹に対しては、稼得分が事実上の上乗せ供給となりうる。リーケージ防止と上限整合性のいずれを優先するかが、本制度の環境十全性を左右する。

価格面では、大幅な上限低減という強気材料と、MDI枠・無償割当・消費者保護という緩和材料が同居しており、シグナルの方向はMDI枠の発行ペースに大きく依存する。発行が当面停止され、影響評価を経て運用される設計となったことが、当面の価格形成における最大の変数となる。

参考:https://ww2.arb.ca.gov/news/carb-adopts-updates-californias-cap-and-invest-program-support-affordability-and-align-climate

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カーボンクレジット.jp 編集部
カーボンクレジット.jp編集部|2023年末に当時日本初かつ唯一のカーボンクレジット専門情報メディアを立ち上げ。高度な専門性とわかりやすさを追求した翻訳力。