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EUの国際カーボンクレジット活用枠に残るパリ協定6条のリスク

2026.06.21 読了 約4分
EUの国際カーボンクレジット活用枠に残るパリ協定6条のリスク
出典:イメージ

EUは2040年の気候目標として1990年比90%の排出削減で合意し、その削減量の最大5%を国際カーボンクレジットで充当することを認めた。これに対し欧州の政策研究機関の分析は、パリ協定6条の枠組みが京都議定書時代の欠陥を解消しておらず、環境十全性のリスクが残ると警告している。

2040年目標が認めた活用枠

2024年11月のCOP29でパリ協定6条のルールブックが確定したことを受け、EUは国際カーボンクレジットの活用に道を開いた。改正EU気候法の下で5%分は2036〜2040年に少なくとも236百万トンCO2eに相当し、これはフランスの年間CO2排出量にほぼ匹敵する。炭素価格を30〜100ユーロ/トン(約5,500〜18,500円/トン)とすれば、その価値は70億〜240億ユーロ(約1兆3,000億〜4兆4,000億円)に達する。

コスト削減の論理は明快である。削減費用が国ごとに異なる以上、最も安価な場所で排出削減を行えば全体コストが下がり、目標達成の確度が高まる。

京都メカニズムが残した教訓

京都議定書はCDMとJIという国際的な柔軟性メカニズムを導入したが、運用面で大きな整合性リスクを露呈した。2008〜2012年に企業はEU ETSの下で約15億トンの国内CO2eを国際カーボンクレジットで相殺し、炭素価格シグナルの弱体化と国内脱炭素インセンティブの低下を招いた。

EUはその後、京都クレジットの利用を段階的に制限し、フェーズIV(2020年〜)では完全に排除した。

パリ協定6条の未解決課題

6条は二つの市場メカニズムを設けた。6条2項は国家間の直接取引、6条4項はUN監督下のパリ協定カーボン市場(PACM)である。

ただし課題は残る。

6条2項では品質責任が当事者間に委ねられ、独立した監督が存在しない。スイスは2030年目標の達成のため約20のホスト国と二国間協定を結び、25億スイスフラン(約5,000億円)の予算を投じるが、その第1号であるバンコクの公共バス電動化事業は、スイスの資金がなくても実施された可能性があるとして追加性に疑問が呈されている。事業レベルの情報開示が限定的である点も透明性の懸念を招いている。

さらに、約1,500件のCDM事業がPACMへ移行する過程で、問題を抱えた旧来の方法論がベースライン設定に温存される懸念がある。移行可能な事業は南アジア・東アジアに集中し、かねて追加性の欠如が批判されてきた領域である。

環境十全性をめぐるリスク分類

分析は、国際カーボンクレジットの信頼性を損なうリスクを測定、永続性追加性ダブルカウント、不正の五つに整理する。これらは国内市場にも生じるが、監視・検証・執行が複雑で情報の非対称性が大きい越境取引において、より深刻になる。

測定の困難は自然由来事業、廃ガス事業、クックストーブ事業で顕著である。特にクックストーブ事業は世帯の行動に関する検証困難な仮定に依存し、過大算定が指摘されている。再エネ事業は発電データと系統排出係数が利用可能なため、ベースライン設定は比較的容易である。

永続性のリスクは自然由来事業に集中する。森林保全や植林、土壌炭素隔離で蓄積された炭素は、山火事、干ばつ、病虫害、土地利用の変化によって失われうる。

追加性は最も頻繁に問われる論点であり、再エネ事業が槍玉に挙がる。技術コストの低下で商業的に成立する案件が増え、カーボンクレジット収入がなくても実施されたはずの事業が多いためである。マクロのレベルでは、ある地域での削減が他地域での排出増を招くリーケージも生じる。

ダブルカウントについて、6条はホスト国がクレジットを移転する際に自国の排出収支へ計上し直すコリ調整で対応する。不正は品質、数量、方法論の各段階に横断的に生じうるリスクであり、事業者・検証者・買い手の間の情報格差がこれを助長する。

これらのリスクを慎重に監視しなければ、国際カーボンクレジットの導入はかえって世界全体のCO2排出を増やしかねないとの指摘もある。

編集部の視点

本件は新たなリスクの出現ではなく、京都メカニズムの信頼を損なったのと同じ追加性、永続性、測定の問題が、パリ協定6条にそのまま引き継がれたことの再確認である。

6条2項に独立した監督が欠け、約1,500件のCDM事業が旧来の方法論を温存したまま移行する構図は、制度的枠組みの整備が品質を保証しないことを示している。買い手が高品質なカーボンクレジットを識別できるかどうかが、EUの活用枠を実効的な排出削減につなげるか、それとも世界全体の排出を押し上げるかを左右する。

参考:https://www.bruegel.org/analysis/buyer-beware-taxonomy-risks-international-carbon-credits

関連タグ パリ協定6条 欧州
カーボンクレジット.jp 編集部
カーボンクレジット.jp編集部|2023年末に当時日本初かつ唯一のカーボンクレジット専門情報メディアを立ち上げ。高度な専門性とわかりやすさを追求した翻訳力。