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米国森林カーボンクレジットのバッファプール、気候リスクに対し平均6.3倍規模不足 Nature掲載研究が指摘

2026.05.25 読了 約5分
米国森林カーボンクレジットのバッファプール、気候リスクに対し平均6.3倍規模不足 Nature掲載研究が指摘
出典:イメージ

米国最大の森林カーボンクレジット制度を支えるバッファプール(事故時補填用準備クレジット)が、気候変動下のリスクに対して規模不足である可能性を、ユタ大学(University of Utah)のウィリアム・アンデレッグ(William Anderegg)教授らの研究チームが指摘した。研究成果は2026年5月20日付Nature誌に掲載された。

研究チームには、UCアーバイン校(UC Irvine)、清華大学などの研究者が参加し、共同筆頭著者にはチャオ・ウー(Chao Wu)氏が名を連ねる。森林インベントリデータ、衛星観測、撹乱モデリング、機械学習を組み合わせ、米国本土の森林における炭素反転リスク(炭素反転=山火事・干ばつ・虫害により蓄積炭素が大気に再放出される事象)を100年スパンでマッピングした。

バッファプールが直面する構造的過小評価

研究の中核的な発見は、米国最大の森林カーボンクレジット制度におけるバッファプール規模が、気候変動を織り込んだ将来リスクに対して平均6.3倍不足しているという点である。将来の気候シナリオ、撹乱の深刻度、対象とする炭素プールの想定によっては、不足倍率は2.2倍から8.0倍の幅で変動する。

研究が分析対象とした制度は、カリフォルニア州大気資源局(California Air Resources Board、CARB)が運営するコンプライアンスカーボンクレジット市場プログラムである。バッファプールは森林カーボンオフセットの永続性を担保する保険機構として機能し、想定外の損失が発生した際に補填用カーボンクレジットを引き当てる仕組みだ。プールが枯渇すれば、既に企業バイヤーに販売されたカーボンクレジットは実質的な気候便益を裏付けないことになる。

気候変動の影響度は撹乱要因によって異なる。山火事による炭素反転の100年発生確率は3.3倍に増加し、干ばつ・虫害でも有意な増加が確認された。炭素反転リスクが及ぶ国土面積の割合は、山火事で10%から33%、干ばつで19%から21%、虫害で23%から25%へと拡大する。

特にカリフォルニア州と山間部西部(Intermountain West)で増加幅が大きく、アイダホ州、南カリフォルニア、アリゾナ州、ニューメキシコ州の広域で、今後100年間に山火事による炭素反転を経験する確率が80%以上に達する地域が確認されている。

永続性の前提が崩れる

問題の根源は、現行のバッファプール算定方法論が静的な歴史データに基づき、気候変動による撹乱頻度・強度の上昇を反映していない点にある。森林カーボンクレジットは通常100年の永続性を前提に設計されるが、その前提条件である「リスクは時間・空間で安定」という仮定そのものが、気候変動下では成立しない。

これは自然由来カーボンクレジット(NbS)の品質要件における中核論点、すなわち永続性(パーマネンス)の担保が、想定よりも遥かに脆弱であることを実証データで示した意味を持つ。1トンの森林炭素は1トンの化石燃料由来排出と等価である、という前提がカーボンオフセットの基本的枠組みだが、その等価性が100年スパンで成立しない可能性が定量的に示されたことになる。

一方で、研究者らは構造的修正の可能性も提示している。気候変動を織り込んだ動的モデルをカーボンクレジット制度に統合することで、低リスク地域(五大湖周辺、北東部等)への投資誘導が可能となる。アンデレッグ教授は、最良の科学とデータを政策に取り込めば、永続性が見込める地域に新規プロジェクトを戦略的に集中できる、と修復可能性を強調する。

ただし、これは制度設計の改善余地を示す一方で、過去に発行・取引された森林カーボンクレジットの永続性主張が遡及的に揺らぐリスクを孕む。一部の見方では、本件は技術修正で吸収可能な校正問題に過ぎないとされるが、自然由来カーボンクレジット全体の品質前提に踏み込む論点として残る。

編集デスクの視点

本研究は、自然由来カーボンクレジットの永続性論争において、これまで定性的な懸念にとどまっていた議論を、米国最大規模のコンプライアンス制度を対象とした定量実証へと押し上げた点で構造的意義を持つ。平均6.3倍という不足倍率は校正レベルの数字ではなく、現行方法論の前提そのものが破綻していることを示唆する。

論点はCARB固有の技術修正に矮小化されるべきではない。気候変動下では撹乱リスクが非定常的に上昇するという発見は、VerraACR、CAR等のボランタリーカーボンクレジット市場における森林系方法論にも横展開可能な批判軸である。100年永続性の前提に依拠する全ての森林系方法論が、同種の再評価を免れない構造に置かれた。

技術由来CDR(DACERW、BECCS等)への資金シフトを加速させる文脈材料となる可能性が高く、企業バイヤーは保有する森林カーボンクレジットの永続性リスクを再点検し、ポートフォリオ全体での技術由来・自然由来の構成比を見直す段階にある。

参考:https://phys.org/news/2026-05-carbon-underestimate-forests-climate.html

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カーボンクレジット.jp 編集部
カーボンクレジット.jp編集部|2023年末に当時日本初かつ唯一のカーボンクレジット専門情報メディアを立ち上げ。高度な専門性とわかりやすさを追求した翻訳力。