化石燃料にCO2 1トンあたり20ドル(約3,190円)の炭素税を課した場合、エチオピアの温室効果ガス(GHG)排出量を削減しながら貧困率と所得格差をも改善できる。欧州委員会共同研究センター(JRC)とアフリカ連合が2026年3月に発表した共同研究がそう示した。ただし、その成否は税収の使途、いわゆる歳入還元(レベニュー・リサイクリング)の設計に完全に依存すると論文は強調している。
論文はJRCとアフリカ連合による共同研究として学術誌に掲載された。分析には、マクロ経済モデル「DEMETRA(コンパータブル一般均衡モデル)」とエチオピア向け税・給付マイクロシミュレーション「ETMOD」を統合したトップダウン型マクロ・マイクロ複合フレームワークを採用。炭素税と各種歳入還元策の組み合わせを定量評価した。
対象とした歳入還元策は次の4つである
炭素税の導入により、化石燃料由来の排出量は5.89%削減される一方、GDP押し下げ効果はわずか0.17%にとどまることが確認された。セクター別では、運輸・水道のように炭素集約度が高い産業で生産縮小の影響が最も大きくなる。
炭素税単体では逆進的な影響(低所得層への負担が相対的に重くなる効果)が生じる。しかし、歳入還元策を組み合わせることで政策は累進的に転換できる。
注目すべき点は、消費税減税(STAX)が唯一、貧困率を継続的に低下させる還元策であることだ。一方、現金給付のような直接的な累進的還元策では、最貧困層の所得を0.21〜1.22%引き上げる効果が確認された。ただし、一部の累進的スキームは他の還元策と比べGDP押し下げ幅がわずかに大きくなるという経済的トレードオフも存在する。
研究は、歳入還元なき炭素税が低所得層に不均衡な負担を与えることを改めて示した。逆に言えば、「課税+戦略的還元」というパッケージ設計によって、環境目標と社会的公正を同時に達成できると結論づけている。
エチオピアはサブサハラ・アフリカでも比較的大きな経済規模を有するが、炭素税・カーボンプライシングの制度整備はこれからの段階にある。アフリカ連合が共同研究に加わった背景には、大陸レベルでの炭素税・排出量取引制度(ETS)導入に向けた政策議論の加速がある。今回の研究はエチオピアを事例としながら、アフリカ全体の低炭素移行に向けた政策設計のエビデンスベースを提供するものとして位置付けられる。
日本は現在、GX-ETSの段階的強化と炭素賦課金の設計議論を進めているが、今回の研究が示す「歳入還元の設計次第で逆進性は累進性に転換できる」という知見は、日本国内の政策議論にも直接応用可能な視座を提供する。
アフリカにおけるカーボンプライシングの動向は、日本企業のサプライチェーン上のカーボンリーケージリスク管理とも密接に関わる。