ノーザン・エンデュランス・パートナーシップ(Northern Endurance Partnership、NEP)は2026年3月、英国北海における炭素回収・貯留(CCS)プロジェクトの評価掘削(アプレイザル・ドリリング)を正式に開始した。英国初かつ最大規模の商業的CO2輸送・貯留インフラ構築に向けた重要な節目となる。
NEPはビーピー(BP)、エクイノール(Equinor)、トータルエナジーズ(TotalEnergies)の3社による合弁企業である。同社は2024年12月、ノース・シー・トランジション・オーソリティ(North Sea Transition Authority、NSTA)から英国初の炭素貯留許可を取得しており、今回の掘削承認はその次のステップに当たる。
評価掘削の対象は、南北海のティーズサイド沖約140キロメートルに位置する塩水帯水層「エンデュランス貯留層」(貯留ライセンス番号CS006)。貯留地点の容量と注入能力を確認する目的で、ジャックアップ型掘削リグ「ノーブル・インタレピッド(Noble Intrepid)」を使用し、約90日間の掘削・分析プログラムが実施される。現場管理はネット・ゼロ・ノース・シー・ストレージ(Net Zero North Sea Storage、NZNSS)が担う。
主要サービスは、SLB(Sequestri技術)、エクスプロ(Expro)(坑井試験)、サイペム(Saipem)(海底パイプライン)の各社が提供する。
評価掘削が完了し商業運転に移行した後、同プロジェクトは当初年間400万トンのCO2を輸送・貯留する能力を持つ。エンデュランス貯留層を含む周辺貯留地点と合わせ、NEPは最大10億トンのCO2貯留容量へのアクセスを確保しており、注入完了は2050年代半ばを見込む。
英国政府はイースト・コースト・クラスターおよびハイネット・ノース・ウェスト(HyNet North West)クラスターに対し、25年間で217億ポンド(約4兆5,570億円)の支援パッケージを確保している。これは同国の産業脱炭素化政策の柱となる大規模コミットメントである。
2026年1月には、NEPとクラウン・エステート(The Crown Estate)が英国初となる商業規模の海底永久CO2貯留・パイプライン回廊のリース契約に署名した。これは2023年9月のリース基本合意(Agreement for Lease)を経て成立したものであり、英国沿岸域の将来のCCSプロジェクトに対して法的テンプレートを提供する点でも意義深い。
クラウン・エステートのCCS・水素担当ディレクターであるデニス・モイラン(Denise Moylan)氏は、「この貯留事業がここまで進展したことは、CCSセクターの大きな可能性を示すものだ」と述べ、英国北東部の脱炭素化と経済成長への貢献に期待を示した。
商業運転開始は2028年を見込んでおり、オンショアインフラおよび145キロメートルの海底パイプラインの建設はすでに着工済みである。
英国が官民217億ポンドの資金で推進するCCSプロジェクトは、日本が「脱炭素成長型経済構造移行推進戦略」(GX推進戦略)の下で進める炭素回収・貯留(CCS)の国内実証と海外展開に向けた有力な参照事例となる。とりわけ「海底リース制度の先行整備」「400万トン規模の年間貯留能力」「産業クラスターとの統合」という三点は、日本の臨海コンビナート群を対象としたCCS事業設計に直接的な示唆を持つ。
GX-ETSの本格稼働を見据え、国内排出事業者にとっても英国モデルの制度・技術動向を追うことが不可欠となろう。
参考:https://northernendurancepartnership.co.uk/2026/01/21/northern-endurance-partnership-and-the-crown-estate-sign-lease-for-uks-first-ccs-project-ahead-of-offshore-construction/