マスト・リフォレステーション(Mast Reforestation)は、米モンタナ州で展開する旗艦バイオマス埋設プロジェクトから発行された除去系カーボンクレジットの全量を、発行からわずか6週間以内に売り切ったと発表した。
新規購入者として戦略コンサルティング大手のベイン・アンド・カンパニー(Bain & Company)と、カナダの大手金融機関であるBMOフィナンシャル・グループ(BMO Financial Group)が名を連ねた。
耐久性と高整合性を兼ね備えた除去系カーボンクレジットへの企業需要の強さを示す事例として、業界の注目を集めている。
完売したのは、マスト・ウッド・プリザーブMT1(Mast Wood Preserve MT1)プロジェクトから発行された4,277トン分の除去系カーボンクレジットである。発行は2026年1月、プロアース(Puro.earth)のレジストリ(登録簿)下で行われた。これは、プロアースの「Terrestrial Storage of Biomass(陸域バイオマス貯留)」方法論の下で発行された案件として過去最大規模にあたる。
注目すべきは開発スピードである。掘削工事から発行までの所要期間はわずか9カ月で、世界の炭素除去(CDR)プロジェクトの中でも最速水準と位置付けられている。生物起源炭素除去・貯留(BiCRS)案件は、植林(ARR)と比べて開発期間が短い一方で、貯留構造体の工学的検証と測定・報告・検証(MRV)プロセスの厳格性が要求される。9カ月での発行到達は、方法論の標準化が一定段階まで進んだ証左とも読める。
新規買い手のベイン・アンド・カンパニーとBMOフィナンシャル・グループに先立ち、すでにロイヤル・バンク・オブ・カナダ(Royal Bank of Canada)、CDRポートフォリオ調達プラットフォームを運営するシーノート(CNaught)などがMT1のカーボンクレジットを購入していた。
格付け面では、ビーゼロ・カーボン(BeZero Carbon)からAレーティングを取得している。マスト・リフォレステーションによれば、自然由来以外(非NbS)の炭素除去プロジェクトのうちこの水準に到達するのは全体の8%未満にとどまるとされ、技術由来CDRセクターの中でも品質面で上位に位置することを示している。
ベイン・アンド・カンパニーのサム・イスラエリット(Sam Israelit)氏は「高整合性の炭素除去は、残余排出に対処しつつ、世界が必要とする気候ソリューションをスケールアップするためのベインの戦略の重要な構成要素である」とし、MT1を「耐久性のある炭素除去と意味のある山火事跡地復興を組み合わせた点が際立っていた」と評価した。
MT1プロジェクトでは、山火事で枯損した立木約4,500トン以上(10百万ポンド超)を伐採・回収し、工学的に設計された地下チャンバー内に封入する。通常の事後管理慣行では、これらの被害木は野焼き(パイル・バーニング)処分され、貯留炭素はCO2として大気中に放出される。これを地下封入によって遮断することで、削減系ではなく除去系(カーボンネガティブ)の効果を生む構造となる。
貯留期間は100年間認証されており、マスト・リフォレステーションの測定・報告・検証(MRV)計画の下で監視が保証される。永続性(permanence)の観点では、岩石風化促進(ERW)や炭素回収・貯留(CCS)と比較すれば短いものの、ボランタリーカーボンクレジット市場で急速に確立されつつある「中耐久(medium-durability)」カテゴリーの代表格として位置付けられる。
カーボンクレジットの売却収益は、現地での復元活動の財源として活用される。プロジェクトサイトでは2026年4月15日から、在来種の針葉樹苗木6,000本以上の植栽が始まった。マスト・リフォレステーションによれば、これは山火事後の再森林化をカーボンクレジット収益で直接ファイナンスする初のBiCRS案件である。
CDR資金が単なる炭素貯留にとどまらず、コベネフィット(生態系回復)に直接還流される設計は、ボランタリーカーボンクレジット市場で重視度が増す「インテグリティ+インパクト」二軸評価への適合を意識したものといえる。
マスト・リフォレステーションのCEOであるグラント・カナリー(Grant Canary)氏は、今回の完売について「バイオマス埋設が投資可能なインフラとして検証された」と総括し、その特性を「予測可能なデリバリー、厳格なモニタリング、そして生態系回復への直接的な資金源」と表現した。
同社は2027年に発行予定の第2案件をすでに視野に入れており、長期目標として2030年に年間15万トン規模の除去系カーボンクレジット供給体制構築を掲げている。
本件は、日本の林業・森林管理関係者および国内CDR市場形成にとって示唆に富む。
日本は国土の約3分の2を森林が占める一方、台風・集中豪雨・松くい虫被害等で発生する被害木の処理は依然として課題であり、その多くが現地放置または焼却処分されている。米国のBiCRS方法論をそのまま適用するには地質条件・水文条件の精査が必要だが、被害木の地下封入による炭素貯留と、そのカーボンクレジット収益による森林再生という資金循環モデルは、J-クレジット制度の森林系方法論や二国間クレジット制度(JCM)の拡張議論にも応用可能性がある。
また、ベイン・アンド・カンパニーやBMOフィナンシャル・グループといった金融・コンサル系大手が高耐久カーボンクレジットの調達主体として登場している点は、ポートフォリオ調達戦略の主流化を示すものである。
日本の大手企業がネットゼロ目標達成に向けて炭素除去(CDR)ポートフォリオを構築する際には、プロアース等の主要レジストリ(登録簿)におけるBiCRS案件のオフテイク機会を、永続性・コベネフィット・価格帯のバランスから戦略的に評価すべき段階に入っている。