ボランタリーカーボンクレジット市場では、2026年第1四半期(Q1)に総取引量が縮小する一方で、価格と品質が下支えする構造変化が一段と進んだ。カーボンクレジット格付け大手シルベラ(Sylvera)が2026年4月9日に公表した最新データによれば、Q1のリタイアメント(償却)量は前年同期比8%減と落ち込んだが、平均価格はむしろ上昇しており、「量から質へ」の市場再編が定着しつつある。
特に注目されるのは、国際民間航空機関(ICAO)の航空セクター向け制度であるCORSIA適格カーボンクレジットが、新規発行量の約半分を初めて占めたことだ。コンプライアンスカーボンクレジット市場の需要を取り込んだボランタリーカーボンクレジット供給が、市場全体の構造転換を主導している。
シルベラのデータによれば、Q1のカーボンクレジットのリタイアメント量は5,100万トンで、前年同期の5,529万トンから8%減少した。リタイアメント総額も2億9,000万ドル(約461億円)から3億947万ドル(約492億円)相当へと縮小した(前年同期比で減少)。
その一方で、1カーボンクレジット当たりの平均価格は前年同期の5.60ドル(約890円)から5.69ドル(約904円)へと上昇しており、買い手側がより高品質で価値の高いカーボンクレジットを選好する傾向が鮮明となった。
供給サイドの変化はさらに顕著である。
第一に、CORSIA適格カーボンクレジットが新規発行量の半分近くに達した点は、コンプライアンスカーボンクレジット市場とボランタリーカーボンクレジット市場の境界が急速に融合しつつあることを示している。
第二に、コアカーボン原則(CCPs)認証カーボンクレジットの供給比率は18%まで拡大した。2023年時点では3%未満だったことを踏まえれば、わずか3年間で6倍以上の急成長である。価格プレミアム(非認証品との価格差)も2倍以上に拡大しており、品質シグナルとしてのCCPsの市場機能が確立されつつあることがうかがえる。
格付け別の価格分化も明瞭である。
シルベラ格付けで投資適格に相当するBBB+以上のカーボンクレジットは、格付け対象市場価値全体の62%を占有し、平均価格は20.10ドル(約3,196円)に達した。一方、低格付けのBクラスは平均7.80ドル(約1,240円)にとどまり、その価格差は2.6倍に開いている。
特にREDD+カテゴリーでは、高格付けクレジットの価格が3四半期連続で上昇したのに対し、低格付け品の価格は横ばいで推移しており、同一カテゴリー内での品質プレミアム形成が加速している。
供給構成を再形成しつつある新興プロジェクトカテゴリーの拡大も注目に値する。
クリーンウォーター(清浄飲料水供給)プロジェクトは年間820万トン規模まで急拡大し、海洋およびマングローブ関連プロジェクト(ブルーカーボンカーボンクレジットを含む)も530万トン規模に達した。さらに、亜酸化窒素(N2O)の排出抑制プロジェクトおよび再生農業プロジェクトも急速に拡大している。
これらは従来の森林由来カーボンクレジット中心の供給構造に、コベネフィット(生物多様性保全、水資源管理、農業生産性向上等)を伴う多様なカテゴリーが加わりつつあることを示している。
シルベラの最高経営責任者(CEO)アリスター・フューリー(Allister Furey)は次のように述べている。
「2026年最初の3カ月間は取引量こそ減少したが、価格は底堅く推移している」
同CEOはさらに、高品質カーボンクレジットの希少化と、規制由来のボトルネックによる完全準拠カーボンクレジットの供給制約が今後一層強まり、市場のタイト化が進む可能性があると指摘した。
シルベラのデータが示す「量より質」への構造転換は、日本企業のカーボンクレジット調達戦略にも直接的な含意を持つ。
第一に、GX-ETSの本格稼働とCORSIA第2フェーズ義務化を控え、コンプライアンス適格カーボンクレジットの確保競争は今後一段と激化することが見込まれ、早期のオフテイク契約や長期調達枠の確保が経済合理的となる局面にある。
第二に、CCPs認証品の価格プレミアム拡大は、単なる「安価なカーボンオフセット」調達のフェーズが事実上終わりつつあることを示唆しており、企業のネットゼロ戦略におけるカーボンクレジット活用は、調達価格よりも追加性・永続性・MRV品質を伴う「投資適格カーボンクレジット」への戦略的ポートフォリオ構築へと移行する必要がある。
クリーンウォーターやブルーカーボン等の新興カテゴリーは、コベネフィットを通じてTNFD開示や生物多様性クレジットとの連動も視野に入る領域であり、サステナビリティ戦略全体との統合的な検討が求められる。
参考:https://www.sylvera.com/ja/blog/q1-2026-carbon-data-snapshot