CORSIA第1段階、ホスト国の認可遅延が20〜50億ドルの遵守需要をせき止める

カーボンクレジット.jp 編集部

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CORSIAが奇妙な逆説に直面している。第1段階の適格供給は理論上、需要を大きく上回る。しかし航空会社が実際に遵守へ充当できるカーボンクレジットは需要に届かず、市場は機能的な品不足に陥っている。

カーボンデータ企業のシルベラ(Sylvera)が公表したデータによれば、制約の本質はプロジェクトの不足ではなく、ホスト国による認可の遅れにある。20〜50億ドル(約3,200億〜8,000億円)規模の遵守支出が、認可の解放を待って宙づりとなっている。

供給過剰の裏にある実質的な品不足

シルベラのデータでは、CORSIA第1段階に理論上適格なカーボンクレジットは約6億4,000万トンに達する。一方、全要件を満たして現時点で利用可能な供給は4,700万トンにとどまる。

認可を発行する可能性が高いと評価される国を加えた楽観シナリオでも、アクセス可能なプールは1億1,800万トン。第1段階のみの需要1億7,450万トンを下回る。

差を生んでいるのはプロジェクトの質ではなく、ホスト国政府が発行する認可状(Letter of Authorisation)である。パリ協定6条の下で、この認可がカーボンクレジットの価値を左右する主要な関門となっている。

認可済みの供給は少数国に集中する。シルベラが追跡する最大の認可枠はガイアナのJREDD+で2,490万トン、次点は280万トンにすぎない。多くの国では認可のパイプラインが不透明かつ低速なまま推移している。

加えて、CORSIA適格と分類されたカーボンクレジットが、必ずしもCORSIAに供給されるとは限らない。

シルベラのデータでは、CORSIAタグ付きのアフリカ産クックストーブ系カーボンクレジットがボランタリー市場で取引されており、見出しの適格量は航空会社が実際に使える量を過大に示している。

航空需要の逼迫とイラン情勢の不確実性

第1段階の需要は1億7,450万トン。エミレーツ航空(Emirates、1,082万トン)、ユナイテッド航空(United Airlines、872万トン)、カタール航空(Qatar Airways、760万トン)、ターキッシュ エアラインズ(Turkish Airlines、750万トン)といった国際線主体の航空会社が需要を牽引する。

ただし、需要見通しには不確実性が残る。

義務量上位15社のうち少なくとも1社が遵守しない意向を示しており、さらにイラン情勢の帰趨によって需要は5,300万トン変動しうるとされる。

CORSIAの存在感は大きい。シルベラの試算では、CORSIAは2030年までの調整済み需要の69%を占める。NDC調達を含む総需要9億6,900万トンのうち、6億6,600万トンがCORSIA由来である。

ボランタリーからコンプライアンスへ

より長期の構造変化はさらに重い意味を持つ。シルベラは、2025年に最終的なカーボンクレジット需要の約85%を占めたボランタリー市場の買い手のシェアが、2033年には約30%まで低下すると予測する。

CORSIA、国内のコンプライアンス制度、そしてパリ協定6条に基づくNDC調達が、同じ供給を奪い合う構図へ移行するためである。需要の主役がボランタリーからコンプライアンスへ入れ替わる。

こうした転換のさなかで、市場はにらみ合いに陥っている。シルベラのベン・ラッテンベリー(Ben Rattenbury)政策担当バイスプレジデントは、買い手は供給が見えないために確約せず、ホスト国は価格が政治的コストに見合わないために認可を出さないと指摘する。各参加者が合理的に行動した結果として、市場全体では不合理な帰結が生じている。

なお、シルベラはこのデータ格差を埋めるとして、供給追跡・主権リスク評価・航空会社のエクスポージャー分析・価格情報を統合したプラットフォーム「Article 6 & CORSIA Hub」の提供を開始した。同社CEOのアリスター・フューリー(Allister Furey)は、航空部門の気候義務を満たす供給は存在しており、欠けていたのは供給と需要をつなぐデータ基盤だと述べている。

編集部の視点

今回のデータが映すのは、需要不足ではなく供給の解放の遅れが市場を縛る構図である。ボランタリー市場が縮小しコンプライアンス需要が主役に転じる局面で、認可が追いつかなければ、コンプライアンス市場は厚みを欠いたまま立ち上がる。

供給が細り続ければ価格は遵守需要を賄うほど上がらず、ホスト国が認可に動く誘因も生まれない。コンプライアンスの強化が供給を呼び込むのではなく、供給の欠如がコンプライアンスの実効性を抑え込む負の循環であり、これを断つには世界的な認可と供給の拡大を加速させる以外にない。

一方で、ボランタリー市場へ流れるクックストーブ系カーボンクレジットや適格性をめぐる規則変更が示すように、量の拡大が質の確保と両立するとは限らない。供給強化のペースとその質こそが、コンプライアンス市場の成立可否を左右する。

参考:https://www.sylvera.com/blog/2bn-in-corsia-compliance-spend-hinges-on-host-country-authorisations