米国の脱炭素ベンチャーであるカウボーイ・クリーン・フューエルズ(Cowboy Clean Fuels)、独立系認証機関のアブソリュート・クライメート(Absolute Climate)、そしてレジストリ(登録簿)運営のエビデント(Evident)は2026年4月8日、炭素除去(CDR)プロジェクトの認証と発行に関する三社提携を発表した。
カウボーイ社のバイオマス由来CDRプロジェクトを、アブソリュート社が策定する「アブソリュート・カーボン・スタンダード(Absolute Carbon Standard、ACS)」で認証し、エビデント社のC-Capsuleレジストリで発行する枠組みである。
複数の収益源を持つ次世代CDRプロジェクトを、買い手が要求する透明性・追跡可能性・検証水準で市場に届ける狙いがある。
今回の提携の核心は、CDRと共産品(再生可能エネルギー等)を同時に生み出す複合プロジェクトの会計手法にある。アブソリュート社が提供するACSは、複雑な産業システム内をCO2フローがどのように移動するか。何が回収され、貯留され、排出されるかを体系的に追跡し、認証された純排出量を算定する標準である。測定・報告・検証(MRV)、リスク管理、独立検証の各要件を定め、買い手と市場に対してプロジェクト成果を一貫した基準で評価できる土台を提供する。
ACSの特徴は、システム全体を横断してCO2フローを把握する点にある。これにより、カウボーイ社のように炭素除去と再生可能燃料生産を同時に行うプロジェクトでも、それぞれの成果物が真の大気影響を反映するように分離会計できる設計だ。
アブソリュート社の共同創業者兼CEOであるピーター・マイナー(Peter Minor)は次のように述べた。「CDRは、その成果がどれだけ明確に示せるかで評価される大規模化フェーズに入っている。カウボーイ・クリーン・フューエルズは『CDR 2.0』の好例だが、各製品に排出を正しく割り当てるためのプロジェクト範囲設定には複雑さが伴う。こうしたシステムが実際にどう動き、どのような大気影響を生むのかを捉えるためには、専用に設計された標準が必要だ」。
カウボーイ社は、農業由来のバイオマスをゼロエミッションの再生可能天然ガス(RNG)に変換しつつ、ワイオミング州パウダーリバー盆地(Powder River Basin)で炭素を恒久的に地中貯留するインフラを開発している。既存の地質学的貯留資産と農業副産物を組み合わせ、クリーン燃料生産と耐久性の高いCDRを同時に実現する仕組みである。
同社は、市場で唯一の特許取得済み「生物起源炭素除去・貯留+再生可能天然ガス(BiCRS + RNG)」パスウェイを運営している。2020年に設立され、本社をコロラド州デンバー、現場事務所をワイオミング州ジレットに置く。
カウボーイ社のCEOであるライアン・ワディントン(Ryan Waddington)は「買い手は、購入する一つひとつのカーボンクレジットが、実在する耐久性のある独立検証済みの成果を反映していることを求めている。ACSはまさにそれを示すフレームワークを提供してくれる。ACS認証とエビデント社のC-Capsuleレジストリを組み合わせることで、洗練された買い手が今期待する透明性・追跡可能性・検証の厳格さを備えたカーボンクレジットを提供できる」と語った。
C-Capsuleレジストリを運営するエビデント社は、I-REC(再生可能電力証書)の運営で知られるクリーン経済認証分野の老舗である。60カ国超で電力認証を提供し、150カ国超の需要家にサービスを展開している。2025年にはエクスパンシブ(Xpansiv)に買収され、300GW超の容量と4,000社超の参加企業を擁する世界最大級のRECネットワークの一翼を担っている。
エビデント社の事業開発ディレクターであるトラビス・キャディ(Travis Caddy)は「カーボン市場は、透明性・追跡可能性・実世界インパクトの基準が一段と引き上げられる新たなフェーズに入っている。今回の提携は、堅牢な科学的方法論と、それを大規模に証跡化するためのデジタル・インフラを組み合わせるものだ」と意義を強調した。
業界が議論する「CDR 2.0」とは、単純な炭素隔離プロジェクトを超え、共産品との同時生産、複雑な産業システム、長期貯留などを統合的に扱う次世代CDRを指す概念である。マイクロソフトやグーグルといった大手需要家の調達基準が高度化するなか、ACSのようなシステムレベル会計の標準とエビデント社のような信頼性のあるレジストリ・インフラは、市場の信認を得るための前提条件になりつつある。
今回の提携は、方法論(ACS)×プロジェクト(カウボーイ社)×レジストリ(C-Capsule)という三層構造を一気通貫で示すモデルケースであり、買い手にとっての「カーボンクレジット品質をどう確かめるか」という問いに対する具体的な回答を提示するものといえる。
日本企業の高品質CDRカーボンクレジット調達ニーズは、SBTiネットゼロ基準やGX-ETSの本格運用と歩調を合わせて拡大している。本件は、CDRと再生可能エネルギーを同時に生み出す複合プロジェクトの「副産物との分離会計」という難題に対し、独立標準の側から解を示した点で示唆深い。日本でもJ-クレジット制度や森林由来カーボンクレジットの議論で、コベネフィットと純炭素効果の切り分けが論点になっており、ACSの方法論的アプローチは制度設計上の参考になり得る。
また、独立した標準設定機関とレジストリを構造的に分離するアブソリュート社のスタンスは、利益相反リスクを設計レベルで低減する仕組みとして、評判リスクを重視する日本の大企業が高品質CDRカーボンクレジットを長期調達する際の選択基準にも影響を与える可能性がある。買い手企業はカーボンクレジット選定時、発行レジストリのガバナンス、認証標準の独立性、システム会計の精緻さの三点を改めて精査すべき局面に入っている。
参考:https://carbonherald.com/cowboy-clean-fuels-absolute-climate-evident-team-up-for-high-integrity-cdr/