最新ニュース
国内ニュース

東京海上日動、GX-ETS関連費用補償保険を提供開始 物理リスクと移行リスクを統合カバー

2026.05.19 読了 約3分
東京海上日動、GX-ETS関連費用補償保険を提供開始 物理リスクと移行リスクを統合カバー
出典:イメージ

東京海上日動火災保険は2026年5月15日、GX-ETSの本格運用開始を受け、対象事業者向けの新保険「GX-ETS関連費用補償保険」を2026年度から提供すると発表した。火災や設備事故により排出削減目標の達成が困難となった場合に、排出枠やカーボンクレジットの追加購入費用等を補償する。

制度的背景

改正GX推進法に基づくGX-ETSは、直近3か年度平均でCO2直接排出量が10万トン以上の事業者に参加義務を課す。各事業者には排出枠が割り当てられ、過不足分は事業者間取引またはカーボンクレジット購入で調整できる。

本格運用に伴い、排出枠およびカーボンクレジット調達は対象事業者の財務管理上の主要論点となる。とりわけ、設備トラブル等で操業が想定外に変動した場合、当初計画を上回る排出量を埋め合わせるための調達コストが発生し、これが収益を圧迫する構造が生じる。

補償の対象範囲

本保険は、自社施設での火災・爆発等の不測かつ突発的な事故により設備の操業停止または能力低下が生じ、GX-ETSの排出削減計画達成に影響が及ぶ場合に、追加費用を補償する。

代替燃料調達費用は、操業継続のために新たに低炭素燃料を調達する際の費用である。排出枠やカーボンクレジットの追加購入費用は、計画対比で増加した排出量を埋め合わせるための調達費用を対象とする。追加対策要否検討費用は専門家への助言費用、排出枠再計算費用は外部企業による排出枠再算出の依頼費用をそれぞれカバーする。

東京海上日動は、グループ会社である日本工営がこれまで提供してきたカーボンクレジット関連の保険商品やサービスを通じて培った知見も活用したとしている。

損保商品設計上の特異性

注目すべきは、本商品が物理的事象を引き金とする移行コストを補償対象としている点である。

火災・設備事故という物理リスクは従来、火災保険や利益保険の主要対象であった。一方、排出規制対応コストの増加は移行リスクとして気候関連財務情報開示の文脈で論じられてきた。

本商品はこの2つを「物理事象が引き金 → 移行コストが発生」という因果連鎖で接続し、1つの保険商品として統合している。

GX-ETS本格運用以前は、排出削減目標未達のコストは制度的に明確な金銭価値を持たず、保険商品として設計しにくい性質があった。本格運用により排出枠とカーボンクレジットが市場価格を持つ取引対象となることで、初めて補償金額の算定が可能となり、商品化の前提条件が整った形となる。

ただし、補償によって排出削減への取り組みインセンティブが弱まる可能性、いわゆるモラルハザード懸念は残る。本商品が「事故起因の計画外排出」に対象を限定している点はこの懸念への配慮と読み取れるが、運用実態は今後の事例蓄積を待つ必要がある。

編集部の視点

本商品は、GX-ETS本格運用が単なる排出管理制度の導入を超え、関連金融サービスの再設計を促す段階に入ったことを示している。

従来、気候関連リスクは物理リスクと移行リスクに区分して論じられてきたが、両者は実務上は連動する。本商品はこの連動を保険設計に取り込んだ先行事例として位置づけられる。GX-ETS対象事業者にとって、排出削減目標は事業計画と一体化したコミットメントとなり、その達成可能性は財務リスク管理の対象として扱う必要が生じる。

本格運用に伴い、損保各社による類似商品の投入、銀行融資条件への組み込み、格付評価への反映といった波及が想定される。GX-ETS対応はもはや環境部門の所管領域に留まらず、財務・リスク管理部門を含む全社的なガバナンス課題に転化していく。

参考:https://www.tokiomarine-nichido.co.jp/company/release/pdf/260515_01.pdf

関連タグ 保険
カーボンクレジット.jp 編集部
カーボンクレジット.jp編集部|2023年末に当時日本初かつ唯一のカーボンクレジット専門情報メディアを立ち上げ。高度な専門性とわかりやすさを追求した翻訳力。