インドネシア・カリマンタン島に位置する世界最大級のREDD+プロジェクト「リンバラヤ生物多様性保護区」が、2026年4月をもって現地パートナーであるPTリンバラヤ(PT Rimba Raya)へ正式に所有権・経営権を移管したことが明らかになった。
インドネシア政府によるボランタリーカーボンクレジット市場への規制強化が直接の引き金となった今回の移管は、アジア最大の熱帯林国家が自国の炭素資産に対するコントロールを強める姿勢を鮮明にした象徴的な事例と言える。
今回の経営移管を決定づけたのは、2025年に施行されたインドネシア大統領令第110号だ。
同令は、カーボンクレジット取引に関する厳格な法的枠組みを定め、すべてのカーボンクレジットをインドネシア国家レジストリ(登録簿)「シスタム・レジストリ・ナシオナル(SRN)」へ登録することを義務付けた。これによりダブルカウント防止と国家利益との整合が図られている。
香港に拠点を置く開発事業者インフィニットアース(InfiniteEarth)は、規制上のハードルから現地でのフィールド活動が事実上停止し、プロジェクトが正式取消の瀬戸際に立たされた経緯から、PTリンバラヤへの全権移管を決断した。
インドネシア政府は2026年6月を目標に、フル稼働のカーボンクレジット市場を立ち上げることを宣言しており、同規制はその準備フェーズの一環として位置付けられている。
PTリンバラヤは今回の移管により、グローバルなボランタリーカーボンクレジット市場においてREDD+の最有力ブランドのひとつとして認知されてきた同プロジェクトの完全な運営権を獲得した。カリマンタン中部・スルヤン県の泥炭地・熱帯林の保全と生態系の回復、地域住民の生計向上を三位一体で進めてきた同プロジェクトの理念はそのままに、国産カーボンクレジットとして再出発することになる。
一方で課題も山積している。
投資家側の需要の低迷と、世界的な地政学的緊張の高まりが、将来のカーボンクレジット売却収入の見通しに影を落としている。プロジェクトの財務基盤の再構築には、SRNへの登録完了と国際的なバイヤーとの新たなオフテイク契約の締結が不可欠だ。
今回の移管は個別プロジェクトの問題にとどまらず、インドネシアが自然に基づく解決策(NbS)および炭素除去(CDR)資産のガバナンスを根本的に転換しようとしていることを示している。外資主導のREDD+プロジェクトを国内法人管理下に置き、国家レジストリ(登録簿)への一元登録を義務化することは、パリ協定6条の枠組みのもとで国際移転対応クレジット(ITMO)の適正な管理を担保しようとする動きとも連動している。
インドネシアはパリ協定6条2項に基づく二国間クレジット制度(JCM)でも日本をはじめとした複数国と協議を進めており、今後は自国の炭素資産の「売り手」としての交渉力を高めるための制度整備が加速するとみられる。
インドネシアの規制強化と現地法人移管は、JCMや自然由来カーボンクレジットの調達を通じてアジアのREDD+市場に関与してきた日本企業にとって重大なシグナルだ。現地パートナーとの権利関係の明確化と、SRNへの登録・対応調整の要件を満たすプロジェクト選定が、今後の調達リスク管理の核心になる。
リンバラヤ案件の教訓は、外資による炭素資産の「実質的なコントロール」が新興国政府によって覆されうる時代に突入したという現実を突きつけている。