インドネシア林業省は2026年4月6日付で林業大臣規則(Permenhut)第6/2026号を発令し、4月13日に公布した。林業セクターのカーボンクレジット取引に関する手続きを簡素化するとともに、プロジェクト単位の成果と国家気候目標との整合を図る「ネスティング」アプローチを導入する。2025年大統領令第110号を上位規定とする実施規則であり、林業大臣上級顧問のエド・マヘンドラ(Edo Mahendra)は本規則を「カーボンクレジット市場における新章」と位置づけている。
本規則の中核は3点に集約される。
第一に、林業セクターのカーボンクレジットの妥当性確認、認証、発行に関する期限と手続きを明確化する。第二に、ネスティング・アプローチによりプロジェクト単位の排出削減成果と国家インベントリを接続し、ダブルカウントを防止する。第三に、市場参加主体を伝統的な企業コンセッション保有者から、先住民族(masyarakat hukum adat)、地域コミュニティ、私有林所有者、社会林業組織にまで拡大する。
国際基準との整合も明示的に組み込まれた。ICVCMが策定したコアカーボン原則(CCP)への準拠を掲げ、越境取引のルールを明確化する。プロジェクト登録は旧来のSRN PPIから新レジストリSRUKへ移行し、2026年6月末までに完全稼働を予定する。
ホスト国としての位置づけも従来から強化された。マヘンドラは、インドネシアが国際カーボンクレジット市場における受動的参加者ではなく主導的役割を担うと表明し、国際基準との整合を通じた信認強化を継続する方針を示した。一方で、業界分析によれば、林業セクターのカーボンクレジット供給ポテンシャルは2050年までに最大134億トンCO2換算に達するとの推計があり、供給規模としては世界有数となる。
ただし、ネスティング・アプローチの実装には課題も残る。プロジェクト単位の排出削減成果を国家インベントリと整合させる作業は、計測方法論の統一、ベースライン設定、相当調整の運用ルールなど多層的な調整を要する。パリ協定6条との関係においても、公認(6条2項に基づく認可済み移転)とボランタリー(民間取引)の線引き、相当調整の適用範囲は引き続き各国制度設計に委ねられており、ホスト国の運用裁量と国際整合性の緊張関係は本規則だけでは解消されない。
需要側の動向も論点となる。
REDD+型カーボンクレジットの市場評価は、過去数年にわたり質に関する疑義から低迷局面にある。ICVCM CCP準拠とネスティング導入は信認回復の制度的基盤となるが、実際の需要回復は買い手側の評価プロセスと国際基準運用の成熟に依存する。
本規則は、ホスト国側がカーボンクレジット市場の制度設計主導権を取りに来た動きとして位置づけられる。大統領令110/2025を起点とするインドネシアの市場整備プロセスの一段階であると同時に、ネスティングと国際基準準拠を制度内に明文化した点で構造的意義を持つ。
中核論点はパリ協定6条との接続である。ネスティング・アプローチはダブルカウント防止という技術論であると同時に、プロジェクト単位の取引と国家NDC達成との関係を整理する主権論でもある。公認ボランタリーの線引き、相当調整の運用ルールは本規則本体では完全には確定せず、今後の実施細則とSRUK運用で具体化される。
ただし、134億トンという2050年供給ポテンシャル推計は供給側の最大値であり、需要側マッチングを前提とした実現可能性は別途検証を要する。REDD+型カーボンクレジットの質に関する市場の評価軸が成熟する過程で、供給規模そのものよりICVCM CCP準拠の実装深度が価格と取引量を左右する。
ホスト国主権の明確化とグローバル整合性の両立をどこまで設計に落とし込めるかが、インドネシアが供給国の主導権を確立できるかを決める。
参考:https://jdih.kehutanan.go.id/new2/home/portfolioDetails3/PERMENHUT_6_2026.pdf/6/2026/5/1341#