ニュージーランド環境省(Ministry for the Environment、MfE)は2026年5月11日、民間運営のボランタリーカーボン市場およびネイチャー市場の品質を担保する政府方針を公表した。整合性評議会(Integrity Council for the Voluntary Carbon Market、ICVCM)とカーボンマーケット成長連合(Coalition to Grow Carbon Markets、CGCM)の2機関を国際認知団体として即時に位置づけ、独自の整合性原則に基づく国内エンドースメント経路を半年以内に運用開始する。
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あわせて同省は5月15日、ETSと自国の国別貢献(NDC)への新規炭素除去活動の組入れ判定に用いる「炭素除去活動の科学的評価フレームワーク」の申請受付を開始した。
一連の発表は、ニュージーランドにおけるVCMガバナンスを公的セクター主導で再構築する政策パッケージの中核を成す。
整合性枠組みの中核は、ボランタリー市場で発行されるカーボンクレジットおよびネイチャークレジットの発行制度(スキーム)に対し、政府が品質を保証する2経路である。
第一の経路である国際認知では、国際的に信頼される認証団体が認定したスキームを政府が即時に認知する。今回の発表ではICVCMとCGCMの2機関が指定された。ICVCMはコアカーボン原則(CCPs)の運用主体として知られ、CGCMは2024年のCOP29を契機に発足した新興のグローバルガバナンス機構である。
第二の経路である国内エンドースメントは、ニュージーランド国内のスキームが任意で参加できる経路であり、政府が定める整合性原則に対する独立評価を経て認定される。エンドースメントは「品質シグナルであり、政府保証ではない」と明示されており、買い手側のデューデリジェンス責任は維持される。
認知・エンドースメントの対象外となるスキームも引き続き運営可能である。市場参加者が独自に品質を判断する構造を残すことで、民間主導のVCM運営原則と公的ガバナンスの並立を意図したものとみられる。
スキームが認知・エンドースメントを受けるために満たすべき整合性原則は、追加性、永続性、実在性と測定可能性、透明性、権利尊重(マオリおよび地域コミュニティの権利を含む)、ダブルカウント回避の6項目で構成される。これらはVCMにおける標準的な品質要件と整合しており、特段の独自性は見られないが、政府が公式にこれらを列挙したことの意義は小さくない。
枠組みの設計は、2025年6月から2026年3月にかけて実施された10件のパイロットプロジェクトに基づく。先住民族の権利尊重を含む整合性原則の構成は、ニュージーランド固有の文脈を反映したものといえる。
整合性枠組みの公表と並行して、政府は公有保全地(Public Conservation Land)を民間のネイチャー・気候プロジェクトに開放する方針も示した。クラウンが既に拠出している取り組みを上回る「追加的成果」を対象とし、年内に申請受付を開始する。
5月15日に申請受付が始まった炭素除去活動の科学的評価フレームワークは、ETSおよびNDCへの新規炭素除去活動の組入れ判定に用いられるものであり、ボランタリー市場参加の前提条件としては要求されない。ただし環境省は、VCMや長期的な参加経路を検討するプロジェクト提案者に対しても、自己評価ツール「Carbon Removal Activity Check」を通じた科学的根拠の整理を促している。
なお、ニュージーランド政府は2022年版の暫定ガイダンス(Interim Guidance)に代わる更新版ボランタリーカーボンガイダンスを近日公表する予定としている。業界分析によれば、更新版にはパリ協定6条2項に基づく対応調整(corresponding adjustments)の記載要件、追加性・永続性・MRV・リーケージ・ダブルカウント・リバーサルリスク管理の品質基準、NDCとの相互作用整理が含まれる見込みである。
一連の発表が示すのは、ボランタリーカーボン市場におけるガバナンス機能の役割分担を、ホスト国が公的に整理した点である。民間運営は維持しつつ、ICVCMやCGCMといった国際ガバナンス機構の認知を政府が公式に行うという構造は、VCMの制度的成熟過程における選択肢を具体化したものといえる。
もっとも、公的認知の対象から外れた方法論・スキームには事実上の格付け差が生じうるとの議論があり、ホスト国ガバナンスがVCMの方法論ポートフォリオに与える影響は引き続き論点として残る。ICVCM承認を受けていないベラ(Verra)やゴールドスタンダード(Gold Standard)の旧来方法論、あるいは独自基準で運営される新興スキームへの波及効果は注視を要する。
エンドースメントを「品質シグナル」と位置づけ、政府保証を明示的に否定する設計は、こうした構造的副作用を一定程度緩和する意図を含むものと読み取れる。買い手側に最終的なデューデリジェンス責任を残す枠組みは、公的セクターが市場の柔軟性を過度に制約しないための安全装置として機能する。
ニュージーランドの取り組みは、その人口規模および排出規模から見て国際市場への直接的な影響は限定的である。ただし、ホスト国レベルでVCM品質ガバナンスを公的に整理する初期事例として、他国の制度設計に参照される可能性は否定できない。特にICVCMとCGCMという2つの国際ガバナンス機構を並列で公的認知した手法は、両機構間の役割分担が未確定な現状において、ホスト国側からの整理のあり方を示すものとして注目される。
ボランタリー市場の制度的成熟は、自律的ガバナンス機構の整備と並行して、ホスト国レベルでの公的整理が進む段階に入った。市場運営の民間性を維持しつつ、品質シグナルの提供を公的セクターが担うという機能分担モデルは、VCMの次の段階を象徴する構造といえる。