ネパール政府は2026年3月15日、カーボンクレジットの透明な管理と国際取引を促進するための「国家カーボンクレジット登録簿(National Carbon Registry Mechanism)」の運用を正式に開始した。
マダブ・プラサド・チャウラガイ(Madhav Prasad Chaulagain)森林環境大臣とUNDP(国連開発計画)代表らが共同で発表した。本システムはパリ協定6条に準拠しており、同国が国際的な気候資金へアクセスし、カーボンクレジット市場へ本格参入するための重要なデジタル基盤と位置づけられる。
今回導入されたレジストリ(登録簿)は、ネパール国内で創出されるカーボンクレジットの登録・追跡・承認・発行・移転をワンストップで管理する中央プラットフォームである。これにより、排出削減成果のダブルカウントを防ぎ、環境保全の誠実性(エンバイロンメンタル・インテグリティ)を確保することが可能となった。
ネパール森林環境省の気候変動管理部門責任者であるマヘシュワール・ダカル(Maheshwar Dhakal)博士は、「このデジタルレジストリ(登録簿)により、政府機関のみならず国内外の民間企業が、パリ協定および国連気候変動枠組条約(UNFCCC)の枠組みの下で、透明性の高いカーボンクレジット市場に参加できるようになる」と強調した。
本システムの技術的意義は、測定・報告・検証(MRV)プロセスのデジタル化にある。カーボンクレジットのライフサイクル全体をシステム上で一元管理することで、パリ協定6条が求める「対応する調整(Corresponding Adjustment)」の実施も技術的に担保される。
本システムの開発は、UNDPネパール事務所の技術・財政支援によって実現した。具体的には、FCDO(英国外務・英連邦・開発省)が支援する「気候資金ネットワーク(Climate Finance Network)」と、スウェーデン政府による「気候変動資金ガバナンス・フェーズ3」からの拠出が活用されている。
ネパールは現在、次期目標である「NDC(国別決定貢献)3.0」の策定を進めており、温室効果ガス(GHG)排出削減と国際的な気候資金獲得を柱とした、同国史上最も野心的な気候変動対策計画となる見通しである。今回のレジストリ(登録簿)運用開始は、この高い目標を達成するための具体的な制度構築の一環と位置づけられている。
ネパール政府は今後、信頼できるパートナーに対し、結果ベースの気候アクションへの投資を広く呼びかける方針を示している。技術的能力の向上と制度的な統合を継続し、カーボンニュートラルで気候変動に強い経済への移行を加速させる計画である。
国際的なカーボンクレジット市場においてネパールの存在感が高まることで、ヒマラヤの森林保全や再生可能エネルギー事業を軸とした自然由来カーボンクレジットの供給拡大が期待される。特に、REDD+や植林(ARR)、森林保全に関連した除去系カーボンクレジットは、永続性と追加性の観点から国際市場での評価が高く、質の高い供給源として機能しうる。
後発開発途上国であるネパールが、ダブルカウント防止機能を備えたパリ協定6条準拠のデジタルレジストリ(登録簿)を整備した意義は大きい。
二国間クレジット制度(JCM)の枠組みを補完する形での国際取引を検討する商社・エネルギー企業、および現地の生物多様性保全を組み合わせたESG投資を模索する金融機関にとって、本プラットフォームの稼働は具体的な調達ルート開拓の起点となりうる。
NDC 3.0の策定と相まって、ネパール発カーボンクレジットの質と量が今後どう担保されるか、方法論とレジストリ運用の詳細を引き続き注視する必要がある。
参考:https://www.spotlightnepal.com/2026/03/15/nepal-launched-national-carbon-registry-mechanism/