国際標準化機構(ISO)は2026年6月17日、組織のネットゼロ移行計画を対象とする「ISO 14060」(ネットゼロ整合組織規格)のドラフトを公開し、12週間の公開協議を開始した。独立した第三者検証が可能な国際規格としては世界初と位置づけられる。
本規格は、2022年に公表されたネットゼロガイドライン「IWA 42」を基礎としている。
ISO 14060は、組織がネットゼロ整合の経路を策定・実施・報告するための原則と要求事項を定める。排出削減目標の設定、移行計画の策定、進捗のモニタリングと報告、妥当性確認・検証までを一貫して扱う。適用対象は企業・法人・NGO・学術機関であり、国・地域・自治体は含まない。主に非金融機関向けに開発され、金融機関は非投融資活動に適用できる。
IWA 42は任意の参照文書だった。本ドラフトはこれを独立検証可能な規格へ格上げするものであり、排出量の定量化をガバナンス、報告、第三者検証に接続することでグリーンウォッシングへの対処を企図している。
規格案は英国規格協会(BSI)とコロンビアのICONTECが共同で主導し、約2年の国際交渉を経た。作業部会はISO史上最大級の規模となった。
ドラフトの実質は、単一の「ネットゼロ宣言」を排し、達成度に応じた4段階の漸進的構造を導入した点にある。各段階に要求事項、期限、対外コミュニケーションで用いる表現が規定される。
第1段階は、ネットゼロまたはカーボンニュートラルの先行コミットメントを持たない組織が、目標と移行計画の策定を約束する段階である。この主張は2年間有効で、進捗が文書化されていれば1年延長できる。期間内にGHGインベントリ、中期目標、移行計画を公表しなければ、主張はすべての対外発信から撤回しなければならない。
中期目標を達成し、経路上で実証可能な進捗を示す段階では、最低限の表現は「ネットゼロ整合の経路上にある」とされる。主張は5年ごとに更新可能であり、目標未達の場合は規格の是正措置規定の対象となる。
組織が「ネットゼロ」を名乗れるのは、最終段階の要件を満たした場合に限られる。
ネットゼロ到達時点で残余排出を相殺できるのは、永続的な除去系のカーボンクレジットに限られる。ドラフトはこれに6つの品質基準を課す。最低100年の永続性、追加性、独立した定量化、リーケージがないこと、ダブルカウントされないこと、信頼できる算定に基づくことである。
削減系および回避系のカーボンクレジットはこの定義を満たさず、相殺には使用できない。
この除去系限定の原則は、IWA 42およびISO 14068が示してきた立場の踏襲である。
一方、過去の高排出への対応や中期目標未達時の是正措置など、相殺の枠外では他の種類のカーボンクレジットが関与する余地が残されている。
ISO 14060は、基準が乱立する環境のなかで公開された。科学的根拠に基づく目標設定イニシアチブ(SBTi)の企業版ネットゼロ基準も改訂版が協議過程にあり、両者は同時期に最終化へ向かう。ISOは並行して、金融機関向けの移行計画規格ISO 32212や、GHGプロトコルとの連携も進めている。
ISOは、これらの取り組みが整合性を高め断片化を抑えると説明する。
ただし、政府公認の規格機関が裏付ける規格が加わること自体が、企業にとっては準拠すべき基準の増加を意味するとの見方も成り立つ。
本ドラフトは、ネットゼロをめぐる原則を新たに打ち立てるものではない。除去系限定の相殺も、削減を相殺に優先させる考え方も、IWA 42やISO 14068、SBTiが既に示してきた。新しいのは、それを任意のガイダンスから検証可能な規格の水準へ引き上げた点にある。
最も実務的な含意は、4段階構造と主張用語の規定にある。「ネットゼロ」という呼称を最終段階に閉じ込め、それ以外には「経路上」という抑制された表現を割り当てたことは、目標設定と達成主張の間に横たわってきた表現の緩みを正面から狙うものである。検証可能性と組み合わさることで、達成していない取り組みが達成済みのように語られる余地は狭まる。
もう一つの論点は、この規格がSBTiの改訂版と同時期に最終化へ向かう点である。政府公認の規格機関が裏付ける国際規格の登場が、企業の準拠負担を増す断片化の上塗りとなるのか、それとも基準が一つの水準へ収れんする軸となるのかは、12週間の協議過程が左右する。
参考:https://www.iso.org/news/2026/06/standard-for-net-zero-alignment