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英国CBAM、2027年1月施行に向け制度詳細が確定 対象5セクターに縮小、CPSも2028年廃止で炭素価格制度はUK ETSへ一本化

2026.04.21 読了 約8分
英国CBAM、2027年1月施行に向け制度詳細が確定 対象5セクターに縮小、CPSも2028年廃止で炭素価格制度はUK ETSへ一本化
出典:イメージ

英国・エネルギー安全保障・ネットゼロ省(Department for Energy Security and Net Zero、以下DESNZ)と英国歳入関税庁(His Majesty’s Revenue and Customs、以下HMRC)は2026年4月9日、2027年1月1日から施行される炭素国境調整メカニズム(Carbon Border Adjustment Mechanism、以下CBAM)の二次法令ドラフト第二弾を公表し、6週間の技術コンサルテーションを開始した。一次法令である「2026年財政法(Finance Act 2026)」は既に成立しており、今回の更新でCBAMの実務的詳細がほぼ確定した。

当初2024年3月のコンサルテーションでは7セクターが対象とされていたが、最終的にガラスとセラミックスが除外され、アルミニウム、セメント、肥料、水素、鉄鋼の5セクターに縮小された。さらに4月16日には、英国財務省(HM Treasury)が電力部門に課されてきた炭素価格支援制度(Carbon Price Support、以下CPS)を2028年4月から廃止すると発表しており、英国の炭素価格制度は排出量取引制度(Emissions Trading Scheme、以下ETS)への一本化が鮮明となっている。

対象セクターの縮小と登録閾値の大幅引き上げ

2026年4月公表の政策概要によれば、CBAMは2027年1月1日以降に英国に輸入される特定品目に対し、UK ETSの下で英国内生産者が支払う炭素価格と同等の価格を課す制度である。当初の7セクター案からガラス・セラミックスが除外された結果、対象はアルミニウム、セメント、肥料、水素、鉄鋼の5セクターに絞り込まれた。原料スクラップ(アルミニウム、鉄鋼)はカーボンリーケージリスクが低いとして対象外とされている。

最低登録閾値も大幅に引き上げられた。2024年コンサルテーション時点では年間1万ポンド(約195万円)であったが、最終的に5万ポンド(約975万円)に設定された。閾値判定は、今後30日間の輸入見込みを評価する「フォワードルッキングテスト」と、過去12カ月の累計を評価する「バックワードルッキングテスト」の二段構えで実施される。

施行初年度(2027年)は直接排出のみがCBAM課税対象となる。当初2024年コンサルテーションでは間接排出(電力使用に伴うScope 2相当)も対象に含む方針が示されていたが、最終法令では直接排出のみに限定された。

排出量算定と検証、ISO 17029/14065ベースのMRV体系

輸入者は、輸入品の排出原単位(tCO2e/機能単位)について以下の二択から選択する。

第一に、サプライヤーから取得した実排出データを用いる方式である。この場合、海外生産設備(installation)が独立検証機関による検証を受けた排出データを輸入者に提供する必要がある。検証機関は、新たに国際認定協力機構(Global Accreditation Cooperation Incorporated、以下GACI、従来のIAFを置換)の正会員である認定機関から、ISO/IEC 17029:2019およびISO 14065:2020に基づく認定を受けていることが要件となる。検証作業には5%の重要性閾値が設定され、原則として現地サイト訪問が必須とされる。

第二に、英国政府が公表するデフォルト排出値を用いる方式である。デフォルト値はCBAM施行前にGOV.UK上で告示される予定で、品目ごとに単一の値が設定される。デフォルト値は前駆品目(precursor good)の排出量算定にも使用可能だが、複合品目(complex good)の排出量算定にデフォルト値を用いた場合、その前駆品目に実排出データを使用することはできない。

排出量算定のシステム境界はUK ETSの境界と整合させる設計となっており、測定・報告・検証(MRV)方式についても英国とEUの相互運用性を確保する形で設計されている。

カーボンプライス減免(CPR)の枠組み

輸入品が原産国で適格な炭素価格制度の対象となっていた場合、輸入者はカーボンプライス減免(Carbon Price Relief、以下CPR)を申請してCBAM負担額を減額できる。適格制度は炭素税、排出量取引制度(ETS)、または輸入品の排出量に課税する制度(他国のCBAMを含む)のいずれかであり、政府または超国家機関が運営し、対象設備の参加が法令で義務付けられているなど、複数の要件を満たす必要がある。

CPRの算定には、施設の検証済み排出データ、適用されたヘッドライン炭素価格、無償割当・補償スキーム等の調整要素を総合的に勘案した「実効炭素価格」を用いる。海外通貨建ての減免額は、輸入の前四半期にHMRCが公表する為替レートで英ポンドに換算される。CPRの検証は、CBAM排出量検証と同等のISO標準(17029、14064-3、14065、14066)に基づき認定された独立検証機関が実施する必要がある。

CPS廃止、UK ETSへの一本化が鮮明に

4月16日、英国財務省のダン・トムリンソン(Dan Tomlinson)財務副大臣は、化石燃料発電所の排出量に課されてきたCPSを2028年4月から廃止する方針を議会に書面で表明した。CPSは2013年に石炭火力発電を抑制する目的で導入され、UK ETS価格に上乗せして1トンあたり18ポンド(約3,510円)が課されてきた。

トムリンソンは「CPSはその役割を終え、もはや目的に適合していない。石炭は系統から駆逐された」と述べ、2024年に英国最後の石炭火力発電所が閉鎖されたことを廃止根拠として挙げた。コンサルティング会社オーロラ・エナジー・リサーチ(Aurora Energy Research)のシニア・リサーチ・アソシエイトであるプラナフ・メノン(Pranav Menon)は「CPS廃止は小売電力価格の引き下げに向けた前向きな一歩である」とコメントした。バーンスタイン(Bernstein)のアナリスト試算では、CPS廃止により電力卸価格はメガワット時あたり約7ポンド(約1,365円)低下し、平均的な家庭の電気代は年間約**21ポンド(約4,095円)**減少する見込みとされる。

この廃止判断は、2024年3月のCBAMコンサルテーション時とは大きく異なる前提を生んでいる。当初案ではCBAM料率の算定にUK ETS参考価格、無償割当調整、CPS料率の3要素を組み合わせる設計が示されていたが、2026年4月公表の最終政策概要ではCBAM料率の算定要素がUK ETS価格と無償割当調整(free allocation adjustment)の2要素のみに簡素化されている。ベースライン期間(2019年、2022年、2023年)の対象設備の直接排出量と無償割当実績の平均値を用いて、UK ETSの無償割当フェーズアウトに連動する「削減係数」で調整する仕組みである。

UK ETSの参考価格は2026年4月時点で1トンあたり約49ポンド(約9,555円)で取引されており、CBAM料率は四半期ごとにHMRCが算定・公表する。試算用の参考料率は2026年秋に公表される予定である。

周辺政策、CCUS非パイプライン輸送(NPT)パイロットも始動

CBAMおよびCPS廃止と並行して、DESNZは2026年4月9日、東海岸クラスター(East Coast Cluster、以下ECC)のティーズサイド(Teesside)拠点に2032年までに接続を希望する炭素回収・利用・貯留(CCUS)プロジェクトを対象とした「非パイプライン輸送パスファインダー選定プロセス(Non-Pipeline Transport Pathfinder Selection Process)」を開始した。道路、鉄道、海運による回収CO2の輸送可能性を実証する取り組みで、エンデュランス(Endurance)海域貯留サイトの残存容量を活用しつつ、パイプライン網から離れた排出源にもCCUS接続の道を開く狙いがある。

英国政府はCCUSインフラ整備に94億ポンド(約1.83兆円)の資本支援を表明済みで、東海岸クラスターおよびハイネット(HyNet)の二大クラスターを核に長期的な炭素管理戦略を進めている。意思表示書(EOI)の提出期限は2026年5月12日、申請受付終了は同年6月12日である。炭素回収・貯留協会(Carbon Capture and Storage Association、以下CCSA)は本パイロットを「柔軟かつ拡張可能なCCUSネットワーク構築に向けた重要な一歩」と評価している。

英国CBAMの最終設計は、EU CBAMとの相互運用性を意識しつつも、登録閾値の5倍引き上げ(1万→5万ポンド)と対象セクターの絞り込み(7→5セクター)で実務負荷を抑える現実路線へと振れた。施行初年度に直接排出のみが対象となる点は、日本企業のサプライチェーン対応の優先順位を考える上で重要な変数である。特に鉄鋼・アルミニウム・肥料・セメントを英国向けに輸出する日本企業および日系商社は、ISO 17029/14065認定検証機関による排出原単位データの整備、およびGX-ETSや省エネ法上の支払い実績をCPR申請に活用する可能性を、2026年内に詰めておく必要がある。

CPS廃止がCBAM料率算定からCPS要素を除外する設計変更と整合的に進んでいる点も注目に値する。英国の炭素価格制度がUK ETSへの一本化に向かうことで、CBAM料率の予見可能性は向上する一方、UK ETS価格自体のボラティリティが料率に直接反映される構造となるため、輸出企業の為替・炭素価格ヘッジ戦略はより重要性を増す。日本においても2026年度からのGX-ETS本格稼働を控え、海外CBAMとの相互運用性確保(特にCPR申請に耐えうる料率算定根拠の整備)が、産業界と政策当局双方の喫緊の課題として浮上している。

参考:https://www.gov.uk/government/publications/carbon-border-adjustment-mechanism-cbam-policy-summary

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カーボンクレジット.jp 編集部
カーボンクレジット.jp編集部|2023年末に当時日本初かつ唯一のカーボンクレジット専門情報メディアを立ち上げ。高度な専門性とわかりやすさを追求した翻訳力。