バルチック国際海運協議会(BIMCO、Baltic and International Maritime Council)の文書委員会は2026年4月30日、液化CO2(LCO2)の海上輸送に特化した世界初の標準タイムチャーター契約「CO2TIME 2026」を採択した。CCUSプロジェクトの実装拡大に伴う海上輸送需要の本格化を背景に、契約実務の世界標準化を企図したものである。
CO2輸送はCCSバリューチェーンにおける「ミッシングリンク」と長らく指摘されてきた領域であり、世界標準契約の整備は、CCUSが本格的な実装段階に入ったことを示す象徴的なマイルストーンと位置付けられる。
CO2TIME 2026は、既存のガスタンカー部門の契約慣行を土台としつつ、液化CO2輸送特有の技術・運用・規制上の課題に対応する条項を組み込んだ。LPG等他の液化ガスへの応用も可能な汎用性も備える。
BIMCO事務次長兼契約担当ディレクターのスティナ・タイガー・イヴェ(Stinne Taiger Ivø)は、「CO2輸送は固有のリスクプロファイルを持つ新興分野である一方、既存のガス輸送実務と密接に連結している。CO2TIME 2026は、馴染みのあるタイムチャーター構造を維持しつつ、CO2輸送固有の技術的・運用的・規制的課題に対応するブリッジとして設計された」と説明している。
注目すべきは責任・費用配分の構造である。CO2TIME 2026では、各種責任・費用が「当該操作判断を制御する当事者」に紐付けられる設計が採られた。CO2の捕捉・液化・輸送・荷揚げ・注入という複数主体が関与するバリューチェーンにおいて、誰がどのリスクを負うかを操作的事実に即して定める仕組みである。
文書委員会委員長のニコラス・フェル(Nicholas Fell)は「確立されたタイムチャーター原則をCO2輸送の特性に適応させることで、契約上の不確実性を低減し、この市場に参入する船主・用船者・ファイナンサー・プロジェクト開発者を支援することを目指す」と述べている。
責任分界点の標準化は、CCS事業のファイナンシャビリティ(融資適格性)に直結する論点である。プロジェクトファイナンス組成において、輸送区間のリスク配分が個別交渉に委ねられる状況は、デューデリジェンスのコストと不確実性を押し上げてきた。世界標準の契約フレームが整うことで、金融機関側のリスク評価が定型化され、CCSプロジェクト全体の資本コスト低下とクロージング期間短縮に資する。ノルウェー沖のノーザンライツ(Northern Lights)プロジェクトが第3船の追加で輸送船隊を拡張するなど、契約実務需要は着実に積み上がっており、標準契約の整備は時宜を得たものといえる。
ただし、契約様式の整備のみで事業の経済性課題が解決するわけではないとの見方もあり、CO2の捕捉コスト・貯留サイトのキャパシティ・規制環境の整備といった本質的課題は引き続き残されている。
本契約の真価は、CCSハブ&スポーク網のファイナンシャビリティを底上げする点にある。日本では先進的CCS事業として複数案件が採択されており、その多くがマレー半島・豪州等を視野に入れたクロスボーダー型である。
これら案件のプロジェクトファイナンス組成において、CO2TIME 2026を雛形とした契約交渉は資本コスト低下とクロージング短縮に直結する。
参考:https://www.bimco.org/news-insights/press-media/press-releases/2026/0430-co2time/