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インド、既存ガスパイプライン併設によるCO2輸送網構想 政策提言と予算配分が連動

2026.05.28 読了 約6分
インド、既存ガスパイプライン併設によるCO2輸送網構想 政策提言と予算配分が連動
出典:<a href="https://www.ceew.in/publications/carbon-capture-and-storage-co2-underground-storage-network" target="_blank">CEEW</a>

インドの主要シンクタンクであるカウンシル・オン・エナジー・エンバイロメント・アンド・ウォーター(Council on Energy, Environment and Water、CEEW)は2026年3月、同国におけるCO2パイプライン網構築に関する報告書を公表した。既存および計画中の天然ガスパイプラインの用地権(Right-of-Way、RoW)を活用して並行敷設する構想であり、最低輸送コストはトンあたり0.70ドル(約111円)と試算された。インド政府が2026年2月の連邦予算でCCUS関連に5年間で2,000億ルピー(約22億ドル、約3,500億円)を配分した直後の発表となり、政策実装に向けた具体的な技術設計を補完する位置づけとなる。

排出源と貯留適地の地理的不整合がボトルネック

インドは2070年ネットゼロを国際公約として掲げる。同国の地中貯留ポテンシャルは317GtCO2と推計され、内訳は塩水帯水層144Gt、玄武岩層170Gt、その他石油・ガス・石炭層となる。玄武岩層は注入されたCO2が鉱物炭酸塩として固定化されるため、注入後の漏洩リスクが極小化される点でCDRの永続性要件と親和性が高い。

ただし主要な貯留適地は排出源と地理的に分離している。玄武岩層はマハーラーシュトラ州とマディヤ・プラデーシュ州に集中する一方、発電所・鉄鋼・セメント等の主要排出源は全土に分散する。CEEW報告書は、長距離・大量輸送の経済性からパイプラインを唯一現実的な輸送手段と位置づけた。

RoW取得の制度的障壁が最大の問題

インドにおけるパイプライン敷設の最大の障壁は用地権の取得である。土地収用、補償交渉、規制対応、既存インフラとの調整等で数年単位の遅延が常態化しており、プロジェクトコスト増と機会損失を発生させてきた。

CEEWは約32,000kmにのぼる既存・計画中の天然ガスパイプラインのうち、約18,000kmのトランクパイプラインのRoWをCO2パイプラインに転用する構想を提示した。最短経路アルゴリズムと線形計画法を用いた4ステップのモデリングで、765の発電・工業プラントを潜在貯留地に接続する最適化ネットワークを設計している。

シナリオは4つの排出源カテゴリー(鉄鋼・セメント、発電所、鉄鋼・セメント+発電所、全産業)、3つの貯留構成(玄武岩のみ、塩水帯水層のみ、両者併用)、2つの人口密度閾値(200人/km2と400人/km2)の組み合わせで計24通りが評価された。人口密度閾値は米国機械学会(American Society of Mechanical Engineers、ASME)B31.8規格の建造物密度区分に対応する。

輸送コストは塩水帯水層活用で最低0.70ドル

24シナリオの輸送コスト試算結果は以下のとおりである。

塩水帯水層のみのシナリオでは0.70-2.16ドル/トン、玄武岩のみでは2.89-4.19ドル/トン、両者併用では0.87-2.51ドル/トンとなった。最低コストの0.70ドル/トンは鉄鋼・セメント+塩水帯水層・人口密度400人/km2の組み合わせで実現される。塩水帯水層は地理的分布が広範であるため短いパイプライン網で接続可能となる一方、玄武岩層は集中分布のため長距離輸送を要する。

ただし玄武岩貯留は鉱物化により注入後モニタリングコストが大幅に低い。CEEWはライフサイクル全体では輸送コストの差を相殺しうると指摘した。発電所を含むシナリオは工業のみのシナリオより一貫してコストが低く、これは輸送量増による規模の経済を反映する。

政策提言と予算配分の整合性

CEEW報告書は5つの政策提言を提示した。第一に、所管省庁を特定したうえでの国家CCS政策の策定と規制機関の設置である。第二に、既存RoWのうちCO2パイプライン併設に活用可能な区間の現地評価である。第三に、1962年制定のPetroleum and Minerals Pipelines(Acquisition of Right of User in Land)Actの改正であり、現行法は石油・鉱物のみを対象とするためCO2を含めるよう修正が必要となる。第四に、ネットゼロ達成に向けた年次CO2輸送容量のロードマップ策定、第五に、排出源密度の高い回廊の優先開発である。具体的には西ベンガル州、オディシャ州、ジャールカンド州、チャッティースガル州を経由する東部回廊が低コスト輸送の候補として挙げられた。

これらの提言は、2026年2月の連邦予算で発表されたCCUS向け2,000億ルピー(約22億ドル、約3,500億円)の5年間配分と整合する。同予算は鉄鋼・セメント・電力・製油・化学の5部門を対象としており、CEEW報告書の対象産業と重なる。

残された未解決課題

一方で、本研究の対象は輸送コストに限定される。CCS全体のコスト構造において、回収(capture)と貯留(storage)が大部分を占めることに留意が必要である。報告書は工業排出の50%、発電所排出の75%を回収・地中貯留すると仮定しているが、回収技術自体のコスト低減と運用は別途の課題として残る。

CEEW自身も方法論上の限界を明示している。既存RoWにCO2パイプライン追設のための物理的空間が常に確保されている保証はなく、現地評価により総延長は増加しうる。また排出プロファイルを静的に扱っており、発電所の閉鎖や新規プラント立地によりネットワーク構造は動的に変化する可能性がある。1962年法の改正には立法プロセスが必要であり、規制当局の設置・運用にも数年単位の準備が想定される。輸送インフラの先行整備が排出源側のCCS導入に追従されない場合、ストランデッドアセット化のリスクも残る。

編集デスクの視点

本研究は新興国におけるCCSインフラ展開の現実解として重要な技術的貢献である。既存ガスパイプラインのRoW流用という発想は、用地取得という最大の制度的障壁を回避しつつ、輸送コストを工業排出の限界削減費用に対して十分低い水準に抑える可能性を示した。CCUS予算2,000億ルピー配分との時期的連動も、シンクタンク提言と政策実装の循環が機能している証左といえる。

ただし評価は限定的である。輸送コスト0.70ドル/トンという数値は、回収・貯留を含むCCS全体コストの一部にすぎず、これを「CCSは安い」というメッセージに転換することは誤読を招く。鉄鋼・セメントのCCS全体コストは依然トンあたり数十ドル規模であり、技術選択肢としての成立には回収側のコスト低減と排出取引制度・規制圧力の組み合わせが不可欠となる。さらに1962年法改正と規制機関設置という制度設計が伴わない限り、技術的最適化は紙上の試算にとどまる。本研究の真価は、制度改革議論の出発点として技術的フィージビリティを提示した点にあり、その実装速度がインドCCS政策の試金石となる。

参考:https://www.ceew.in/publications/carbon-capture-and-storage-co2-underground-storage-network

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カーボンクレジット.jp 編集部
カーボンクレジット.jp編集部|2023年末に当時日本初かつ唯一のカーボンクレジット専門情報メディアを立ち上げ。高度な専門性とわかりやすさを追求した翻訳力。