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アイルランドCDR業界団体CDRi、国家CDR産業創出を政府に提言 「年間1,000万トン除去で雇用1万人・GDP20億ユーロ寄与」を試算

2026.04.30 読了 約6分
アイルランドCDR業界団体CDRi、国家CDR産業創出を政府に提言 「年間1,000万トン除去で雇用1万人・GDP20億ユーロ寄与」を試算
出典:イメージ

アイルランドのCDR(炭素除去)業界団体「Carbon Dioxide Removal Ireland(CDRi)」は2026年4月、国内CDR産業の本格立ち上げを政府に求める提言を公表した。

年間1,000万トンのCO2除去能力を備えれば、約1万人の雇用と20億ユーロ(約3,200億円)のGDP寄与が見込めるとの試算を示し、供給・需要・イノベーションの三方向での即時的な政策支援を要請している。

提言の根幹にあるのは、EUの2050年気候中立目標の達成にはGHG削減と並行してCDRが不可欠であり、出遅れは国際的な投資・人材・サプライチェーン獲得競争での敗北に直結するとの危機感である。

罰金80~260億ユーロのリスクと自然炭素吸収源の劣化

CDRiが提言の根拠として示すのは、アイルランドが直面する具体的な経済リスクである。

アイルランド財政諮問評議会(Irish Fiscal Advisory Council)と気候変動諮問評議会(Climate Change Advisory Council)の試算では、削減目標未達による気候関連の罰金は80~260億ユーロ(約1.3兆~4.2兆円)に達する可能性がある。CDRiは、この公的資金を罰金支払いに充てるのではなく、自国CDR産業への投資に振り向けるべきだと主張する。

加えて欧州科学諮問委員会(European Scientific Advisory Board on Climate Change)が2025年に指摘したEU域内の自然炭素吸収源(森林・土壌)の深刻な減衰も背景にある。吸収源の劣化は気候災害の頻発・激化を通じて損害保険料の上昇という形で家計に転嫁されており、CDRの導入加速は罰金回避と気候適応コスト抑制の両面で経済合理性を持つとの整理である。

経済試算の根拠としてCDRiが参照しているのはCarbon Removal Canadaの分析であり、Canadaが算出した雇用・GDP波及係数をアイルランド規模に適用した推計値となる。元データの方法論的妥当性は別途検証が必要だが、年間1,000万トン規模のCDR産業が地域雇用と農村経済に与えるインパクトの大きさを示すベンチマークとして提示されている。

供給・需要・イノベーション

CDRiが具体的に求める政策措置は以下の三領域である。

第一に供給側支援として、初期段階のCDR開発事業者への信頼構築を目的とした「First-of-a-Kind(FOAK)プロジェクト」向けの的を絞った資金供給メカニズムの整備を要求している。CDR技術の多くは商業化初期段階にあり、技術リスクと事業リスクが重畳するため、民間資金単独では資本コストが過大となる構造的問題への対応である。

第二に需要側支援として、政府によるアイルランド産CDRクレジットの調達制度導入を提案している。これは英国が2025年に発表したDACおよびBECCS向けの「Contract for Differences(CfD)」スキーム、米国のDOE炭素除去調達プログラム(CDR Purchase Pilot Prize)、EUが計画中のCDR「Buyers’ Club」など、欧米で先行する公的需要創出モデルと軌を一にするものだ。安定的な需要シグナルの不在が初期市場形成の最大のボトルネックとなっている現状認識が背景にある。

第三にイノベーション支援として、大学・研究機関で進行中の研究を商業化可能な技術に転換するためのR&D予算と賞金型インセンティブの拡充を求めている。アイルランドではすでに「2050 Sustainability Accelerator」やブルーカーボン研究プロジェクト「BlueC」「Quest」などが進行中だが、これらを実装段階に橋渡しする仕組みが手薄との指摘である。

地中CO2貯留禁止とロンドン議定書修正案未批准

提言の射程を理解する上で重要なのは、アイルランド固有の制度的制約である。

Carbon Gapの国別政策トラッカーによれば、現在アイルランドでは地質構造へのCO2貯留が法律上禁止されており、また国際的なCO2輸送を可能にするロンドン議定書修正案も未批准の状態にある。この二重の制約は、BECCSおよびDACCS(Direct Air Capture with Carbon Storage)の国内展開を事実上不可能にしており、CDRiが「迅速な行動」を求める核心的な論点となっている。

実際、アイルランドではNEG8 Carbon社とProchem Engineering社が新規DACプロジェクトのエンジニアリングスタディに着手しているが、貯留オプションが国内で確保できなければ、捕集したCO2の輸出先確保に依存することになる。CDRiの提言は、こうした個別プロジェクトを国家産業として育てるための制度基盤整備を求めるものと位置づけられる。

なお、アイルランド政府の動きとしては、2025年4月に承認された「Climate Action Plan 2025」が2030年までの排出量51%削減(2018年比)と2050年気候中立を改めて確認し、5カ年カーボンバジェット制度の中間点として位置づけられた。

Climate Action Plan 2024では2026~2030年期間に26MtCO2eqの削減ギャップが存在することが明示されており、この穴埋め策としてCCSおよびCDRが検討対象となっている。CCUS Task Forceが規制枠組みの作業計画策定を進めているほか、Carbon Farming Frameworkも第二次パブリックコンサルテーション段階にある。ただし国家CDR目標(national removal target)は依然として設定されておらず、CDRiが求める制度整備の多くは未完の状態である。

欧州CDR市場での主導権争いと日本市場への示唆

CDRiの提言の直接的な含意は、アイルランドが欧州CDR市場における主導権獲得競争で出遅れつつあるという危機感の表明である。スウェーデン(BECCS主導)、ノルウェー(北海地中貯留・Northern Lights)、デンマーク(Project Greensand)、英国(Track-1/2 CCSクラスターおよびCfD)といった先行国は、いずれも国家戦略レベルでCDR産業育成を進めており、初期段階のFOAKプロジェクト、政府調達、国際移転枠組みのいずれかを既に整備済みである。

CDRiが提言で述べる「他の欧州諸国はすでに前進している。アイルランドが待てば待つほど、この新興産業を定義する投資・人材・サプライチェーン獲得の競争で勝つことが困難になる」という警句は、CDR産業立ち上げを検討するすべての国・地域にとって普遍的な構造課題を示している。

参考:https://www.gov.ie/en/department-of-climate-energy-and-the-environment/press-releases/government-approves-climate-action-plan-2025/

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カーボンクレジット.jp 編集部
カーボンクレジット.jp編集部|2023年末に当時日本初かつ唯一のカーボンクレジット専門情報メディアを立ち上げ。高度な専門性とわかりやすさを追求した翻訳力。