日本電気(NEC)は、東京大学大学院農学生命科学研究科との共同研究において、マレーシア・ランビルヒルズ国立公園の温室効果ガス(GHG)吸収量の実測データをもとに、陸域生態系モデル「VISIT(Vegetation Integrated Simulator for Trace gases)」とNEC独自のデータ同化技術を組み合わせ、同エリアの炭素蓄積速度を一日平均誤差9.4%という高精度で算定することに成功したと発表した。
NECは東南アジア諸国の森林におけるGHG吸収量の定量化と、森林由来のカーボンクレジット組成を目指した取り組みを進めている。その中核となるのが、東京大学が開発したVISITモデルである。
VISITモデルは、植生・土壌・気象データを入力として炭素蓄積量やCO2フラックス(森林と大気間のCO2吸収・放出量)を推定する炭素循環評価モデルであり、土地利用変化や気候変動の影響評価にも対応する。特にアジア地域の森林に対する高い適用性を有している点が大きな強みである。
世界最大のボランタリーカーボンクレジット発行機関であるベラ(Verra)のVCS方法論では、推奨モデルが欧米地域を対象としたものに偏っており、アジア地域に適したモデルの記載がなかった。VISITモデルの活用は、この空白を埋める取り組みとして注目される。
データ同化技術とは、モデル出力と実測値との差分からモデルパラメータを補正し、推定精度を向上させる計算技術である。NECが特許出願済みの本技術をVISITモデルに組み合わせることで、従来よりも効率的かつ高精度な森林炭素蓄積速度の算定が実現した。
将来的には、衛星搭載ハイパースペクトルセンサから取得した画像データとVISITモデルを連携させることで、広域かつリモートでのCO2フラックス推定精度の向上が可能になるとされる。森林分野において観測モデルにデータ同化技術を適用する手法はまだ一般化しておらず、本研究の先駆性は高い。
NECは本共同研究で得られた知見をもとに、自然資本算定およびカーボンクレジット事業の加速を表明している。測定・報告・検証(MRV)の精度向上は、森林由来カーボンクレジットの信頼性と市場価値を左右する根幹的な課題であり、誤差9.4%という水準はクレジット組成の実用段階に近づく成果といえる。
アジア熱帯林のカーボンクレジット創出において、MRV精度の向上は最大のボトルネックの一つである。ベラのVCS方法論が欧米向けモデルに偏る中、アジア特化型のVISITモデルとデータ同化技術の組み合わせは、二国間クレジット制度(JCM)を通じたASEAN諸国との森林カーボンクレジット案件にも応用が期待される。
GX-ETSの第2フェーズにおいて森林由来の自然由来カーボンクレジットの需要が高まる中、日本企業がMRV技術の供給側としてアジア市場のルール形成に関与できるかが問われている。
参考:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000001263.000078149.html