環境省は2026年3月26日、経済産業省・農林水産省・日本政府指定JCM実施機構(JCMA)との連名で、二国間クレジット制度(JCM)の適用が認められるプロジェクトの基準(JCM適用基準)を公表した。基準策定の目的は、関係者の予見性向上、制度趣旨の明確化、そしてパリ協定6条に沿ったJCMプロジェクトの組成加速である。
JCMは、日本が途上国・新興国との間で実施する温室効果ガス削減・吸収プロジェクトから生じる排出削減量を、パリ協定6条2項に定める国際移転対応クレジット(ITMO)として活用する仕組みである。2025年末時点で29カ国・地域との間に政府間協定が結ばれており、国家間のカーボンクレジット移転スキームとしては世界最大規模のネットワークを形成する。
しかし、「どのようなプロジェクトがJCMとして認められるか」という適用要件は従来、明確に対外発信されていなかった。今回の基準策定は、事業者側の設計段階における不確実性を排除し、官民双方のリソースを適切なプロジェクトへ集中させることを意図したものだ。
公表されたJCM適用基準は以下の四要件で構成される。
プロジェクトがJCMから生じるカーボンクレジット収入なしには事業性を確保できないか、あるいは収益が見込めたとしても投資回収年数の長期化や内部収益率(IRR)の低下によって実施が困難になることを示すことが求められる。加えて、以下の二点も説明が必要となる。
なお、IRRや投資回収年数について一律の数値基準は設けないとされた。この柔軟性は、再生可能エネルギー、森林保全、メタン削減など多様な分野への適用を担保するものだが、事業者側には定性的な説明義務が課される点に注意が必要だ。
排出削減・吸収を行う機器調達または設備建設の着工前に、日本政府を通じて相手国政府に対しPIN(Project Idea Note:プロジェクト概念書)を提出していることが原則として義務付けられる。ただし、事業環境の変化によって事業継続に支障が生じた場合や、JCM申請につながる公的資金支援を受けている事業は例外扱いとなる。
森林分野・農業分野・土地利用分野のように機器調達を伴わないプロジェクトについては、要件2の事前提出義務は適用されない。また、パートナー国との間でJCM森林ガイドラインが承認される以前に開始された活動であっても、ガイドライン規定を満たす場合はJCM対象となり得る。これは自然に基づく解決策(NbS)活用の促進を念頭に置いた措置とみられる。
PINにおいて、排出削減・吸収に対する日本企業または日本政府の役割が明確に記述され、かつ日本の資金貢献が数値で示されていることが必要となる。この要件は、JCMが真に日本の技術・資金を動員するメカニズムであることを国際社会に対して説明可能にするためのものと解釈できる。
環境省は、基準を満たしても、パートナー国政府との合意が得られない限りJCMとして認められないことを明示した。審査は関係省庁・政府機関による総合的な判断に委ねられており、JCMカーボンクレジットの発行プロセスには引き続き相応のリードタイムと政府間調整コストが伴う。
今回の適用基準公表は、GX推進を掲げる日本企業にとって実務上の重要性が高い。サプライチェーン排出量(Scope3)の削減手段としてJCMカーボンクレジットの活用を検討する企業は、プロジェクト設計の初期段階からPIN提出プロセスを計画に組み込む必要がある。特に「一律IRR基準なし」という柔軟規定は、難易度の高い炭素除去(CDR)技術や新興市場でのプロジェクト組成にとって追い風となり得る。一方、追加性・NDC貢献・波及性の三軸での説明責任は従来より高まっており、プロジェクト組成段階での厳密なフィジビリティ評価が今後の審査通過の鍵を握ることになる。