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CCS事業法、2026年5月22日に完全施行へ 関係政令を閣議決定、海域貯留CO2の濃度99%基準など固まる

2026.04.30 読了 約7分
CCS事業法、2026年5月22日に完全施行へ 関係政令を閣議決定、海域貯留CO2の濃度99%基準など固まる
出典:イメージ

日本政府は2026年4月24日、「二酸化炭素の貯留事業に関する法律の施行に伴う関係政令の整備及び経過措置に関する政令」を閣議決定した。

2024年5月24日に公布されたCCS事業法(令和6年法律第38号)が2026年5月22日に完全施行されることに伴うもので、貯留事業および導管輸送事業に係る具体的な運用ルールが整備される。

日本における2030年代初頭からの炭素回収・貯留(CCS)事業の本格開始に向けて、制度面の主要な枠組みがほぼ出そろった形だ。

海域貯留と規制権限の一元化

第1に、二酸化炭素の貯留事業に関する法律施行令の改正である。海域の貯留層に貯蔵するCO2の濃度を体積比で99%以上とする基準が明文化された。ただし、CO2以外の不純物が海洋環境への影響が少ないと主務省令(経済産業省・環境省令)で認められる場合は99%未満でも許容される設計となっており、現実のCCSオペレーションで生じる微量の同伴ガス(窒素、酸素、水蒸気等)への一定の柔軟性が確保された格好である。

第2に、これまで海洋汚染等及び海上災害の防止に関する法律(昭和45年法律第136号)に置かれていた海域CCSに係る環境大臣の許可制度がCCS事業法に一元化された。今後の海域CCS規制は経済産業大臣と環境大臣の共管となり、エネルギー政策と環境保全の両面から運用される。これは英国における海上CCSの規制体系(北海移行庁および英国・エネルギー安全保障・ネットゼロ省の共管)に類似した二元規制体制であり、日本のCCS事業者にとってはダブル許可を前提とした申請・運用体制の構築が必要となる。

第3に、独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)が行う通知貯留区域管理業務に関し、災害その他やむを得ない理由がある場合の拠出金の延納制度が整備された。第4に、登録導管輸送工作物検査機関の登録更新期間が3年と定められた。

「試掘権の登録」から「貯留権等の登録」へ

政令整備で実務上の影響が大きいのは、登録制度の刷新である。従来の「二酸化炭素の貯留事業に関する法律第二条第八項に規定する試掘権の登録に関する政令」は「貯留権等の登録に関する政令」へと題名が改められた。試掘段階だけでなく、貯留権そのものを登録対象とすることで、CCS事業の長期安定運用に必要な権利関係の明確化が進む。

具体的には、表題部の登録事項に許可貯留区域、貯留事業または試掘の概要等が加わり、権利部には共有分割禁止の定めが追加された。さらに、抵当権の登録事項として債権額、債務者の氏名・名称・住所等が新設された。これは、CCS事業がプロジェクトファイナンス(PF)の対象となり得ることを制度的に裏付ける重要な改正であり、貯留権を担保とした資金調達の道筋が法的に整備されたことを意味する。

加えて、自然環境保全法施行令の改正により、沖合海底自然環境保全地域内における貯留事業のための海底掘削が許可・届出対象の特定行為として追加された。海洋保全と事業推進の調整メカニズムが具体化された形である。

日本のCCS規制は欧米とどう違うか

CCSの法制度を巡っては、各国がここ数年で急速に整備を進めている。

米国はインフレ削減法(IRA)で45Q税額控除をCCS・直接空気回収・貯留(DACCS)の両分野で大幅に拡充し、CCSは埋設量1トンあたり最大85ドル(約12,750円)、DACCSは同180ドル(約27,000円)の控除水準まで引き上げて商業化を加速させた。英国は2030年までに2,000~3,000万トン規模のCO2を回収する目標を掲げ、ハイネット(HyNet)やイースト・コースト・クラスター(East Coast Cluster)など産業クラスター単位のCCSプロジェクトを政府支援の下で推進している。

EUは2024年に発効したネット・ゼロ・インダストリー法(Net-Zero Industry Act)で、2030年までに年間5,000万トンのCO2注入容量を域内に確保することを定めた。

日本のCCS事業法アプローチは、補助金や税額控除といった直接的な経済インセンティブよりも、まず権利・許可・保安・モニタリングの基盤法を確立する戦略である点に特徴がある。

今回の関係政令で運用ルールが具体化されたことで、日本のCCS事業者は2026年5月以降、ようやく事業実施の制度的足場を得ることになる。

カーボンクレジット/CDR市場への含意

CCS事業法は直接的にはカーボンクレジット制度ではないが、CDR(炭素除去)系のカーボンクレジット供給インフラとして極めて重要な意味を持つ。理由は3点ある。

第1に、バイオエネルギー炭素回収・貯留(BECCS)や生物起源炭素除去・貯留(BiCRS)といった除去系の技術由来手法は、貯留インフラの存在を前提とする。日本国内に法制度的に確立された貯留事業がなければ、これらの方法論で発行可能な高品質なCDRクレジットの国内供給は事実上困難であった。CCS事業法の完全施行は、プロアース(Puro.earth)やアイソメトリック(Isometric)といった除去系レジストリ(登録簿)が要求する永続性の要件を満たすための、地質学的貯留オプションを日本国内で確保する第一歩となる。

第2に、ハード・トゥ・アベイトセクターである鉄鋼、セメント、化学、製油所等での残余排出処理ルートとしてのCCSは、企業のネットゼロ移行計画の信頼性を左右する。SBTiのコーポレート・ネットゼロ・スタンダードは、最終的な残余排出の中和に永続的な炭素除去(CDR)を要求しており、CCSを伴う除去系手法へのニーズは中長期的に拡大する見通しである。

第3に、炭素回収・利用・貯留(CCUS)と炭素回収・利用(CCU)の境界をどう設計するかは、今後発行されうるカーボンクレジットの方法論設計に直結する。永続的に貯留されたCO2のみが除去としてカウントされる原則(耐久性要件)の下、日本のCCS事業法体系がどこまで国際的な方法論(ベラ(Verra)、ゴールドスタンダード(Gold Standard)、ICVCMのコアカーボン原則(CCPs)等)と整合的に運用されるかが今後の焦点となる。

今後のスケジュールと残された論点

政令の公布は2026年4月30日、施行は2026年5月22日が予定されている。CCS事業法本体の完全施行と歩調を合わせた運用開始となる。

ただし、いくつかの重要論点は依然として政省令レベルの詳細設計に委ねられている。海域貯留CO2の99%基準の例外を認める「主務省令で定める基準」の具体的閾値、貯留事業者の保安義務の運用、JOGMECによる通知貯留区域管理業務の実務、そして長期モニタリング期間中の責任移転の実装等である。これらは2026年度中に主務省令ベースで明らかにされていく見通しだ。

日本企業、特に鉄鋼・セメント・化学等のハード・トゥ・アベイト分野でネットゼロを掲げる企業にとって、CCS事業法の完全施行は残余排出の処理ルートを国内に持つことの実現可能性が一段階前進したことを意味する。これまで多くの日本企業が海外のCCS/CDRプロジェクトからのカーボンクレジット調達に依存せざるを得なかったが、今後は国内貯留オプションを織り込んだトランジション計画が現実味を帯びる。

ただし、CCS事業法はあくまで事業の制度的基盤であり、コスト競争力を担保する経済インセンティブは依然として課題である。米国の45Qに匹敵する直接的支援が日本にはまだ存在しない以上、GX-ETSの炭素価格水準と国内CCSのコスト構造が整合する政策設計が、今後5年間の最大の論点となるだろう。

サステナビリティ部門の実務担当者は、自社のScope 1排出構造、長期トランジション計画、そして除去系カーボンクレジット調達戦略の3点を、CCS事業法施行を踏まえて再点検することが推奨される。

参考:https://www.env.go.jp/press/press_04233.html

関連タグ CCS CDR
カーボンクレジット.jp 編集部
カーボンクレジット.jp編集部|2023年末に当時日本初かつ唯一のカーボンクレジット専門情報メディアを立ち上げ。高度な専門性とわかりやすさを追求した翻訳力。