環境省と公益財団法人地球環境センター(GEC)は2026年4月21日、令和8年度から令和9年度の二酸化炭素排出抑制対策事業費等補助金「二国間クレジット制度(JCM)資金支援事業のうちシナジー型JCM創出事業」の公募を開始した。
応募締切は2026年6月1日正午。総予算は2か年で約1.8億円を想定し、JCMパートナー国に加えて候補国としてブラジル連邦共和国とマレーシアが対象国に明示された。
本事業は、JCMの「設備補助事業」への発展を見据え、パートナー国でJCMプロジェクトとして実装された実績のない先進的な脱炭素技術を導入する実証事業を支援する枠組みである。エネルギー起源CO2の削減に加え、大気汚染、水質汚染、生物多様性の損失、フロンによる環境影響など、現地が抱える複数の環境課題を同時に解決する、または課題間のトレードオフを回避・低減する「シナジー型」の脱炭素技術が条件となる。
平成25年1月のモンゴルとの構築を皮切りに、JCMのパートナー国は2026年4月21日時点で32か国に拡大している。環境省はこの枠組みを通じて途上国等の温室効果ガス(GHG)排出削減と日本の国別削減目標(NDC:Nationally Determined Contribution)の達成に活用してきた。
本年度公募の特徴は、新規パートナー国およびJCMの実装が浅いパートナー国を重点的にターゲットとしている点にある。さらに、独立行政法人国際協力機構(JICA)や政府系金融機関等の出資・融資を受ける事業との連携も対象に含まれており、政府開発援助(ODA)スキームと補助事業の対象範囲を区分できることが要件として明記されている。
対象事業の要件として、以下を全て満たすことが求められる。
第一に、エネルギー起源CO2の排出を削減すること。
第二に、大気汚染・水質汚染・生物多様性の損失・フロンによる環境影響等、事業実施国が抱える他の環境課題の解決やトレードオフ回避・低減に資すること。
第三に、技術が研究段階ではなく国内(または国外)で実証済みであること。
第四に、対象国において当該技術に新規性があること。
なお、廃棄物等の処理に関するサービス提供事業、または処理事業者から委託を受けた施設建設事業は対象外とされている。
加えて、持続可能な開発目標(SDGs)への寄与、ジェンダー・ガイドラインへの適合、「ビジネスと人権」に関する行動計画および「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」に沿った人権デュー・ディリジェンスの実施が要件として明示された。
補助対象者は、日本法人と外国法人等で構成される国際コンソーシアムの代表事業者となる日本法人に限定される。民間企業(外国企業が会社法に基づき設立した日本法人を含む)、独立行政法人、地方公共団体、社団法人、財団法人等が対象となる。
補助率は原則として補助対象経費の2分の1。ただし、コンソーシアムに参画する全ての日本法人が中小企業基本法に規定する中小企業者である場合は3分の2に引き上げられる。
補助対象経費は、本工事費、付帯工事費、機械器具費、測量及試験費、設備費(モニタリング機器を含む)、業務費、事務費の各区分で構成される。一方、用地取得費、既存設備の撤去費、汎用性の高い事務機器の購入・借用費、為替手数料、銀行振込手数料などは補助対象外である。
代表事業者および共同事業者が自社製品を調達する場合は、市場価格ではなく製造原価ベースで補助対象経費に計上する利益排除ルールが適用される。
実証事業は原則として令和10年1月末までに完了させる必要があり、補助事業全体の完了期限は令和10年3月10日と設定されている。単年度事業(令和8年度内完了)と2か年事業(令和9年度内完了)の2パターンが選択可能である。
取得財産については、設備が稼働してから法定耐用年数満了までの期間、目的外使用が禁止される。さらに代表事業者は、補助事業完了の翌年度から3年間にわたり、毎年度の成果目標達成状況、エネルギー起源CO2を含むGHG削減量実績、シナジー効果の達成状況を環境大臣に報告する義務を負う。
評価審査では以下の配点で採点が行われ、合計60点超が採択妥当性の目安とされる。
提案技術の実現可能性が30点、実証内容の妥当性が20点、事業化時のエネルギー起源CO2を含むGHG排出削減効果が30点、事業者の経営健全性・財務基盤の健全性が10点、代表事業者の2050年カーボンニュートラルおよび2030年度削減目標の実現に向けた取組が10点。これに加えて、JCMを活用した事業化を具体的に計画している場合に最大10点の加点項目が用意されている。
GHG排出削減効果の評価では、事業化時の事業プラン(パートナー選定、製造・販売・収益性・保守体制、資金調達計画)の妥当性、設備投資額に対する費用対効果、削減量算出方法の適切性、そしてシナジー効果の定量的試算が問われる。
代表事業者の2050年カーボンニュートラル目標、Scope1+2およびScope3の削減目標の設定、デコ活応援団への参画、デコ活宣言への登録も加点対象として組み込まれた。
シナジー型JCM創出事業は、JCMという日本独自のクレジット制度の中で、単純な脱炭素効果(GHG削減)だけでなく、他の環境課題とのコベネフィットを構造化した点に特徴がある。
これは欧州サステナビリティ報告基準(CSRD)が採用するDNSH(Do No Significant Harm)原則やSBTi、TNFDの自然関連リスク評価の方向性とも親和的であり、日本企業がパリ協定6条に基づく国際移転対応クレジット(ITMO)を獲得する過程で「環境統合性(environmental integrity)」を訴求する重要な根拠となり得る。
特に注目すべきは、ブラジルとマレーシアが候補国として明示された点である。
ブラジルは2025年COP30の開催国であり、Article 6.4 メカニズムやREDD+などの自然由来カーボンクレジットの主要供給国に位置づけられる。マレーシアはASEAN域内で再生可能エネルギーや産業脱炭素のニーズが高まる新興市場であり、日本企業のサプライチェーン展開とも整合する。両国を早期にJCM枠組みに取り込む布石として、本公募の戦略的意義は大きい。
予算規模1.8億円は限定的だが、本事業は設備補助事業への登竜門であり、採択企業は中長期的にJCMクレジット創出を通じたScope3削減ポートフォリオの構築やGX-ETS下での自主的目標達成に向けた具体的なツールを得ることになる。
中小企業向けに補助率を3分の2まで引き上げた設計は、これまで国際展開のハードルが高かった中堅・中小の脱炭素技術ベンダーに対する明確なシグナルといえる。