2025年の世界のエネルギー起源CO2排出量は前年比1.1%増の358億トンと、過去最高を更新した。エネルギー協会(Energy Institute)がエンバー(Ember)などと共同でまとめた「世界エネルギー統計レビュー」2026年版で明らかになった。
増加分の3分の1超を単独で生み出したのは米国である。天然ガス価格の上昇を受けて発電部門が石炭に回帰したことが直接の引き金となった。
米国の石炭消費は2025年に10%増加した。ガス価格が50%上昇し、発電所の燃料経済性が石炭優位に振れた結果、近年続いていたガスへの移行が逆流した。
主要地域のエネルギー起源CO2排出 前年比増減率(2025年)
単位:%(前年比)
北米の排出は過去10年、年平均0.7%減で推移してきた。2025年はこの低下基調が反転した。
出典:エネルギー協会「世界エネルギー統計レビュー」2026年版
北米全体では排出が2.7%増え、過去10年の年平均0.7%減という低下基調を反転させた。中国の同年の排出増が0.7%、欧州が0.5%にとどまったのとは対照的である。ガソリン・軽油の消費が2年連続で減少した中国を、排出増の絶対量で米国が大きく上回った。
2025年の世界エネルギー起源CO2排出 増加分に占める米国の割合
世界全体の増加:前年比+1.1%(過去最高の358億トン)
天然ガス価格の50%上昇を受けて発電所が石炭へ回帰し、米国の石炭消費は10%増加した。
出典:エネルギー協会「世界エネルギー統計レビュー」2026年版
今回のレビューで構造的に重いのは、米国の石炭回帰そのものよりも、それを取り巻く全体像のほうだ。
2025年、再生可能エネルギーは景気後退局面を除いて初めて、世界の一次エネルギー供給増の最大の源となった。供給増の71%を太陽光が占め、太陽光の発電量は30%伸びた。再エネ発電全体は9.1%増加し、太陽光の発電シェアは8.7%に達して風力(8.4%)を初めて上回り、原子力(8.8%)に肉薄した。
2025年の世界の発電量シェア 太陽光が初めて風力を逆転
単位:総発電量に占める割合(%)
太陽光の発電シェアは初めて風力(8.4%)を上回り、原子力(8.8%)に並びかけた。記録的な導入が続いてなお、世界のCO2排出は減少しなかった。
出典:エネルギー協会「世界エネルギー統計レビュー」2026年版
それでも世界のCO2排出は減らなかった。
電力需要がEV、データセンター、AIを牽引役に3%増と供給増を上回り、化石燃料の絶対量も依然として拡大を続けたためである。化石燃料は一次エネルギー供給の86%を占めたままだ。再エネの記録的な導入をもってしても、需要増の速度と燃料価格の変動が排出増を打ち消すには至らなかった。
この事実は、削減優先の原則を改めて前面に押し出す。排出削減の総量が需要増に追いつかない局面では、残存排出をカーボンクレジットで相殺するという発想は説得力を弱める。
一方で、構造的に削減しきれない排出が残り続ける以上、除去系CDRやオフセットへの需要はむしろ底堅いとの見方も成り立つ。再エネ拡大が排出を止められないという同じデータが、緩和優先論とオフセット需要論の双方の根拠として引かれる構図にある。
2025年のデータが突きつけたのは、再エネを世界最速で積み増しても、需要増と燃料価格の振れ次第で排出は容易に反転するという現実である。これはオフセット活用の前提に逆風となる。
緩和の総量が需要に追いつかない局面では、残存排出をカーボンクレジットで埋める戦略の正当性は問われやすくなる。米国という先進経済が、ガス価格の上昇ひとつで石炭へ回帰しネットゼロ軌道を踏み外した。削減経路はそれほど脆い。化石燃料輸入に依存し、ホルムズ海峡の供給途絶リスクに晒される日本にとって、これは他国の話ではない。
カーボンクレジット調達を脱炭素戦略の柱に据える場合、自社の削減経路が燃料価格や系統制約でどこまで揺らぐかを織り込んだ上で、カーボンクレジットの位置づけを精査する必要がある。排出反転が現実に起きた以上、調達計画の頑健性が問われる局面に入ったといえる。
参考:https://www.energyinst.org/statistical-review
参考:https://ember-energy.org/latest-insights/energy-institute-statistical-review-of-world-energy/