ボランタリーカーボンクレジット市場が転換点を迎えている。スイスを拠点とするカーボンアセット開発・気候コンサルティングのグローバルリーダー、サウスポール(South Pole)は2025年、2026年に向けた市場動向と購買戦略をまとめた「カーボンマーケット・バイヤーズガイド2026」を公開した。同ガイドは、カーボンクレジットが単なるカーボンオフセット手段を超え、企業のネットゼロ戦略における戦略的資産へと進化しつつあると指摘している。
同ガイドが強調する最大のメッセージは、カーボンクレジットの役割の変容だ。深い脱炭素化(ディープデカーボナイゼーション)と並行して、高品質なカーボンクレジットの長期的な供給確保が、炭素コスト上昇への耐性を築きながらネットゼロ目標を達成するための決定的戦略と位置づけられている。
サウスポールが実施した調査によれば、金融機関の73%が投資先企業にカーボンクレジット戦略の策定を求め、77%はトランジションプランを持つ企業をより魅力的な融資対象と評価している。高品質なカーボンクレジットへの需要は今後も増大すると見込まれており、企業には早急な対応が求められる。
同ガイドは、2026年以降のカーボンクレジット購買判断を形成する4つの主要テーマを提示している。
第1に、インテグリティとデジタル化の標準化だ。 測定・報告・検証(MRV)の厳格化とカーボンクレジット品質の標準化が加速しており、バイヤーには一層厳密なデュー・ディリジェンスが求められる。
第2に、ネットゼロ目標の実効性強化だ。 グリーン主張に対する法的執行力の高まりや、航空分野のCORSIAをはじめとするコンプライアンス義務の拡大が、購買戦略に直結する規制圧力となっている。
第3に、国際的な枠組みの整備進展だ。 各国の炭素税・排出量取引制度(ETS)の拡大、「カーボンニュートラル」表示の衰退と並行し、EUの炭素除去(CDR)認証フレームワークや、炭素国境調整メカニズム(CBAM)の初の財務適用フェーズが本格始動する。
第4に、価格の二極化と戦略的資産化だ。 高品質なカーボンクレジットの価格上昇が続くなか、特に除去系カーボンクレジットでは需要が供給を大幅に上回る状況が生じており、プレパーチェスカーボンクレジット(先渡し購入契約)の活用が不可欠な戦略となる。
サウスポールのサーティフィケーツ部門エグゼクティブ・ディレクター、マルコ・マジーニ(Marco Magini)氏は次のように述べている。
「昨年は気候変動対策にとって厳しい一年だった。極端な気象現象が頻発する一方、主要政策の後退も見られた。しかし2026年は、インテグリティが標準となり市場が成熟するという点で、大きな転換点となる。投資家や経営陣は今や、透明性のあるリスク管理と気候レジリエンスの実証を企業に求めている。高インテグリティのカーボンクレジットは、信頼性あるネットゼロ・トランジションプランを補完し、残余排出量を管理する上で重要な役割を担う。とりわけ、需要が急速に供給を上回っている除去系カーボンクレジットについては、価格急騰へのヘッジが2026年の決定的戦略となる」
同ガイドはバイヤーに対し、以下の具体的行動を推奨している。
日本企業にとって、GX-ETSの本格稼働とScope3開示要請の強化が重なる2026年は、カーボンクレジット調達を「コスト」から「戦略投資」へ転換する正念場だ。
特に除去系カーボンクレジットの供給逼迫は国内市場でも顕在化しつつあり、プレパーチェスカーボンクレジットによる長期供給確保を今から検討すべきフェーズに入っている。
サウスポールが示す「インテグリティの標準化」という潮流は、J-クレジット制度の高度化議論にも直結するものであり、幅広い業種において国内外の動向を横断的に把握する体制が急務となっている。
参考:https://www.southpole.com/ja/publications/2026-carbon-market-buyers-guide