英国拠点のカーボンクレジット認証機関アイソメトリック(Isometric)は、HFCおよびODSの回収・破壊を対象とする新方法論を認証した。冷媒として使用されてきた合成GHGの大気放出を防ぐプロジェクトに対し、ボランタリーカーボンクレジット市場での発行根拠を提供する枠組みとなる。第1サプライヤーとしてリクーリット(Recoolit)が登録された。
HFCおよびODSはGWPがCO2の数百倍から数千倍に達する合成GHGであり、冷却機器の冷媒として広く使用されてきた。モントリオール議定書およびキガリ改正は新規生産・使用の段階削減を規定するが、既存機器に充填された冷媒の廃棄段階処理は直接的な対象としていない。多くの国で機器の寿命終了時にこれらのガスが大気放出されており、短期的な温暖化への寄与が問題視されている。
新方法論「HFC and ODS Recovery and Destruction Protocol」は、廃棄段階の冷媒を回収して認証施設で破壊するプロジェクトに対し、排出削減量を定量化する枠組みを提供する。具体的には以下の要件を課す。
方法論は30日間のパブリックコンサルテーションを経て認証され、買い手・サプライヤー・冷媒管理および大気科学の技術専門家からのフィードバックを反映している。
アイソメトリックは、DAC、強化風化、海洋アルカリ度強化など、高品質な除去系カーボンクレジット認証機関として位置づけられてきた。本方法論は同社にとってメタン関連の埋立ガス焼却・利用方法論、稲作AWD方法論に続くものであり、CDR専業から削減系・回避系領域への事業範囲拡張を示すものとなる。
HFC・ODSのような高GWP・短寿命ガスの即時削減は、気候緊急性の文脈で再評価される動きが出ている。同等のCO2換算量を100年スパンの大気CO2除去で達成する場合と比較して、短期的な温度上昇抑制への効果は大きく異なる。
もっとも、削減系・回避系と除去系を同列の品質基準で評価すべきかについては引き続き論点として残る。回避系・削減系カーボンクレジットは「もし破壊しなかった場合」というカウンターファクチュアル設計に依存しており、追加性の検証構造が除去系とは本質的に異なるためである。
HFC関連カーボンクレジットには重い歴史的負債がある。
CDMの下で発行されたHFC23破壊カーボンクレジットは、副生物の破壊で巨額のCERを生み出し、結果として親ガスHCFC22の生産インセンティブを強化したとの批判を浴びた。いわゆるホットエア問題の象徴的事例であり、その後の市場における回避系・削減系カーボンクレジット評価を悪化させた経緯がある。
新方法論の国別適格性リスト年次更新と、新規生産・輸入インセンティブの非該当性検証は、この歴史への直接的な応答として読み取れる。各国のキガリ改正実施スケジュールに応じて適格対象を動的に調整することで、破壊活動が新規生産を誘発する構造を排除する設計となっている。
ただし、検証の実効性は各国のMRV体制に依存する。Article 5諸国は2024年から段階削減を開始したばかりであり、回収・破壊インフラと併せて報告・検証インフラの整備が同時進行している。99.99%の破壊効率や個別計量・管理連鎖追跡要件の現場実装には相応のキャパシティ構築が必要となる。リクーリットのCEOであるルイ・ポトック(Louis Potok)も、Article 5諸国におけるHFC破壊方法論の不在がスケール拡大を阻んできた点を指摘している。
本件は、ボランタリーカーボンクレジット市場における高品質基準の構図が変化していることを示す。
除去系専業として評価を確立してきたアイソメトリックがメタンおよびHFC・ODSといった高GWPガスの削減方法論を相次いで認証している事実は、永続性を中核とする除去系優位の単軸的序列が崩れつつあることを意味する。
特筆すべきは、本方法論がCDM時代のHFC23ホットエア問題への構造的応答として設計されている点である。
国別適格性リストの年次更新によって新規生産インセンティブを遮断する仕組みは、回避系・削減系カーボンクレジットへの不信感を生んだ最大の論点に正面から対処している。回避系全般の信頼回復には至らないが、方法論レベルで歴史的失敗の教訓を組み込む実例として位置づけられる。
参考:https://isometric.com/writing-articles/a-new-protocol-for-destroying-hydrofluorocarbons-and-ozone-depleting-substances