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CDRクレジット価格ギャップ縮小もメソドロジー別に二極化進行 日本企業のオフテイク戦略は転換点へ

2026.05.12 読了 約7分
CDRクレジット価格ギャップ縮小もメソドロジー別に二極化進行 日本企業のオフテイク戦略は転換点へ
出典:<a href="https://info.opis.com/cdr-market-pricing-survey?__hstc=261871442.73674bbaea183b80636b97fd39747181.1778510287172.1778510287172.1778510287172.1&__hssc=261871442.1.1778510287172&__hsfp=0929be3cefd2d81d3c930de1c73b6389" target="_blank">opis</a>

2026年5月、CDR.fyiとDow Jones傘下のOPIS(OPIS)は、CDR市場を対象とした第2回価格サーベイの結果を発表した。買い手と売り手の価格期待ギャップは、前回の107ドル/トン(約16,800円)から98ドル/トン(約15,400円)へと9ドル縮小した。

ただし、全体平均としての収束ナラティブの裏で、メソドロジー別の分断構造が顕在化しつつある。バイオ炭とBECCSが価格レジリエンスを示す一方、DACCSは依然として供給・需要間の構造的乖離を抱える。市場は単純な「収束」ではなく 「分断的成熟」 の局面に入った。

サーベイの位置付けと全体傾向

第2回サーベイは2025年12月に実施され、バイオ炭BECCSDACCSERW、Mineralization、Other Biomass、mCDRの7メソドロジーについて、供給側・需要側それぞれの価格期待を聴取した。第1回サーベイは2024年10〜12月実施であり、約1年間の価格期待の変化を時系列で追跡できる初の継続調査である。

第2回の核心的な発見は3点である。

第一に、買い手の支払意思価格と売り手の必要価格の平均ギャップが縮小したこと。

第二に、買い手・売り手の双方とも近い将来にCDR価格が100ドル/トン未満まで下落することは見込んでいないこと。

第三に、長期永続性・透明性・実績ある供給者を「プレミアム支払い対象」とする選好が明確化したことである。

バイオ炭/BECCSが示す価格レジリエンス

第1回サーベイで、バイオ炭の供給側の損益分岐点は2025年143ドル/トン、2030年136ドル/トン、適正利潤は2025年187ドル/トン、2030年180ドル/トンと、他メソドロジーと比べて高い価格安定性を示していた。第2回ではこの傾向がさらに鮮明化し、 バイオ炭カーボンクレジット価格は2026年に約10%上昇する との見通しが示された。

BECCSについても、第1回サーベイで供給側の損益分岐点が2025年232ドル/トン、適正利潤が301ドル/トンと、ストックホルム・エクセルギ(Stockholm Exergi)の80万トン/年計画やオーステッド(Ørsted)の43万トン/年計画など大規模プラントを背景に経済性が織り込まれており、技術的成熟度から2030年に向けた大幅な価格低下は限定的とされていた。第2回でも BECCSは契約ボリュームに支えられた価格安定性を維持している。

両メソドロジーは供給側のコスト構造に明確な裏付けがあり、買い手が選好する「永続性とコベネフィットを兼ね備えた除去系カーボンクレジット」の主力供給源として位置取りを固めつつある。

DACCSの構造的乖離は依然継続

一方、DACCSは第1回サーベイ時点で、供給側の損益分岐点が2025年 670ドル/トン(約10万5,000円) 、適正利潤が 822ドル/トン(約12万9,000円) という高水準であった。供給側・買い手ともに2030年までに約50%の価格低下を見込んでおり、供給側の損益分岐点は341ドル/トン、買い手の希望は272ドル/トンまで下落するとの予測が示されていた。

しかし、この大幅な価格低下予測には、量産化を伴うR&D進展、CAPEX圧縮、貯留コスト低下といった複数の前提が織り込まれている。第2回サーベイでも、買い手は「品質への逃避」のなかでDACCSの長期永続性に対するプレミアム支払意思を示すものの、供給側の現実コストとの乖離が即座に解消する兆しは見えていない。グーグル(Google)とホロセーン(Holocene)が締結した先行販売型ディール、供給者が将来の学習曲線を織り込んだ価格で買い手にトン数を販売する構造は、依然として高固定費メソドロジーの典型的な事業化モデルとして参照されている。

一方で、DACCSの早期コスト低下シナリオに懐疑的な見方もある。第1回サーベイの供給側損益分岐点の回答分布には600ドル/トン超も複数含まれ、サーベイ内部で価格期待の分散が極めて大きいことが示されている。コンソリデーション(業界再編)を経た少数の生存供給者のみがコスト曲線を実際に下方に押し下げ得るとの見立ては、第2回サーベイの結果でも実質的に維持されている。

「品質への逃避」とレガシー回避系からの離反

第2回サーベイで明確化したもう一つのテーマは、買い手の選好における 「品質への逃避(flight to quality)」 である。1,000年以上の貯留永続性、認証されたコベネフィット、透明性、実績ある供給者。これらの属性に対して、買い手はプレミアム支払いを許容する傾向を強めている。

CDR.fyiの市場データによれば、第1回サーベイ時点で500ドル/トン超の支払い実績がある買い手は32社のみ、1,000ドル/トン超の購入の98.5%はフロンティア(Frontier)とミルキーワイヤー(Milkywire)の触媒的投資に由来していた。第2回サーベイは、こうした初期イノベーター層に続く第二陣の買い手が、もはや単純な低価格志向ではなく、品質要件を備えた除去系カーボンクレジットを選好する局面に入りつつあることを示唆する。

1トン当たり数ドル水準のレガシー回避系カーボンクレジットからの離反は、SBTiのコーポレートネットゼロ要件で残存排出に対する永続的除去が必須化される流れと整合的である。

回避系から除去系へ、低永続性から高永続性へ。カテゴリ間の資金フローの再配分が、第2回サーベイの底流にある。

納品リスクという構造課題

ただし、市場の「収束」と「品質への逃避」を楽観的に読むには注意が必要である。CDR.fyiのデータによれば、これまでに契約されたCDRの累計1,300万トンのうち、 実際に納品されたのはわずか4%に過ぎない。フォワード契約価格の議論が活発化する一方で、デリバリーリスクは構造課題として残り続けている。

買い手側からは、事前購入に対する価格ディスカウントとして供給側が提示する水準が、買い手の期待に届かないとの指摘も第2回サーベイで確認された。価格期待ギャップの平均値が縮小したとしても、契約構造・納品保証・リスクプレミアム配分といった取引条件の細部では、依然として摺り合わせの余地が大きい。

政策の役割と日本市場の接続点

市場メカニズムだけで高固定費メソドロジーの価格を押し下げるのは困難であるとの認識は、第1回・第2回サーベイ双方で共有されている。CDR.fyiは、米国の45Q(DACCSに対し180ドル/トン)の維持・拡大、CfDの導入、中央集権的なCDR配分制度を含むコンプライアンス市場の整備を、市場の下支えとして提言している。

日本市場との接続点として注目すべきは、 GX-ETSが今後どこまでCDRを射程に含めるかという論点である。

GX-ETSは現時点では国内排出量取引制度として設計されているが、ネットゼロ達成局面でのCDRの位置付け、J-クレジットおよびJCMとの整合性、ボランタリーカーボンクレジット市場との接続関係は、いずれも今後の制度設計次第で大きく変動する。米国45Qのような税額控除型インセンティブ、欧州型のCfD、いずれかの政策ツールが日本でも検討対象となる可能性は十分にある。

第2回サーベイが示す本質は「全体平均としての価格収束」ではなく「メソドロジー別の分断的成熟」である。

日本の商社・電力・素材系企業は、フロンティアやマイクロソフト(Microsoft)型の先行買い手と比較して、フォワード契約・プレ購入での価格形成側への参画が限定的である。価格レジリエンスが見え始めた今こそ、バイオ炭/BECCSについては「短期スポット+中期オフテイク契約」、DACCS等の高固定費メソドロジーについては「長期フォワード契約」という二段構えのオフテイク戦略を本格化させるべき局面にある。納品リスクを警戒した受動的観察から、能動的な価格形成側への転換が、SBTi対応とコーポレートネットゼロ戦略の両輪で求められる。

参考:https://info.opis.com/cdr-market-pricing-survey?__hstc=261871442.73674bbaea183b80636b97fd39747181.1778510287172.1778510287172.1778510287172.1&__hssc=261871442.1.1778510287172&__hsfp=0929be3cefd2d81d3c930de1c73b6389

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    カーボンクレジット.jp 編集部
    カーボンクレジット.jp編集部|2023年末に当時日本初かつ唯一のカーボンクレジット専門情報メディアを立ち上げ。高度な専門性とわかりやすさを追求した翻訳力。