カーボン・リムーバル・カナダ(Carbon Removal Canada)、フロンティア(Frontier)、地域経済プラットフォームのデュグリオヴェール(DuGrisAuVert)エコシステムは2026年4月28日、世界初となる表層鉱物化(surficial mineralization)の研究・実証拠点「ケベック表層鉱物化ハブ(Quebec Surficial Mineralization Hub)」をカナダ・ケベック州テットフォード・マインズ(Thetford Mines)に開設したと発表した。
同ハブは、表層鉱物化を活用した炭素除去(CDR)技術の商用化を加速させる狙いを持ち、この種の施設としては世界で初めての存在となる。
表層鉱物化は、特定の岩石が大気中のCO2と反応して安定的な炭酸塩鉱物として固定される自然現象を、人為的に加速させる炭素除去(CDR)手法である。自然界では数千年単位で進行する反応を、岩石を粉砕して表面積を拡大し、CO2を含む流体に晒すことで数十年スケールに圧縮する点が特徴である。岩石風化促進(ERW)と並ぶ鉱物化系CDRの代表的アプローチであり、二酸化炭素を炭酸塩鉱物として永続的に固定するため、永続性が極めて高い。
フロンティアの加圧試験では、CO2吸収効率と入手可能性のバランスから蛇紋岩(serpentinite)が最適なフィードストックであると結論づけられている。同社は2025年の年次レターにおいて、表層鉱物化が最終的に1トン当たり80ドル未満(約12,000円未満)のコストでギガトン規模のCDRを実現しうるとの仮説を提示しており、現行の直接空気回収・貯留(DACCS)と比較しても顕著なコスト優位を持つ可能性がある。
ケベック州は、世界最大級の蛇紋岩採掘地域の一つである。同州には、長年アスベスト鉱業の中心地として産業を支えてきたテットフォード・マインズを中心に、約800メガトン(8億トン)の蛇紋岩鉱滓(mine tailings)が集積している。これは、世界最大の採掘可能蛇紋岩鉱床の一つであり、表層鉱物化の商用化に必要な原料基盤を満たしている。
新設されたハブでは、研究者・スタートアップが利用できる1万トンの蛇紋岩鉱滓へのアクセスに加え、許認可済みの実証用敷地、共有可能な処理・計測・モニタリング機器、地域研究機関との連携体制が一体的に提供される。これにより、表層鉱物化分野で最大の障壁とされてきた初期投資・許認可取得・地域社会との関係構築の各コストが大幅に削減される。
フロンティアは、永続的な炭素除去(CDR)クレジットを2022年から2030年にかけて累計10億ドル(約1,500億円)以上買い取る先行需要保証(advance market commitment:AMC)を運営する。出資元はストライプ(Stripe)、アルファベット(Alphabet)、ショッピファイ(Shopify)、メタ(Meta)、マッキンゼー(McKinsey)の5社に加え、ストライプ・クライメート(Stripe Climate)を活用する数万社で構成される。
ケベック表層鉱物化ハブで採択された企業は、フロンティアからプレパーチェスカーボンクレジットの買取契約またはR&D助成金を受けることができる。フロンティアで展開責任者を務めるハンナ・ベビントン・ヴァロリ(Hannah Bebbington Valori)は「表層鉱物化はギガトン規模のCO2除去を実現しうるが、現場での実証チームをさらに増やす必要がある。テットフォード・マインズの1万トンの鉱滓・研究設備・許認可済みの敷地は、初期段階の企業がこのアプローチの可能性を実地で検証する環境となる」とコメントした。
カーボン・リムーバル・カナダの試算によれば、ケベック州における表層鉱物化の商業プロジェクトが本格展開された場合、4億〜7億トンのCO2除去が可能となり、その経済価値は600億〜1,750億ドル(約9兆〜26兆2,500億円)に達する見通しである。さらに、プロセスの副産物としてニッケル、マグネシウム、コバルトといった重要鉱物の抽出も可能であり、CDRと重要鉱物供給を両立するコベネフィットを生む。
カーボン・リムーバル・カナダの執行責任者であるナイム・マーチャント(Na’im Merchant)は「テットフォード・マインズはカナダの産業遺産の重みを世代を超えて背負ってきたが、その同じ地質が今、世界がいまだ見ぬものの礎となる。本ハブは、炭素除去が遠い未来の約束ではなく、いま、カナダで地域社会の支援の下に進行している現実であることを証明する」と述べた。
デュグリオヴェールを統括するルドヴィック・ボーリガード(Ludovic Beauregard)も「かつて鉱業負債とみなされていたものが、今や数十億ドル規模の価値を生み出しうる新たな環境経済の基盤となりつつある」と述べ、地域経済への波及効果を強調した。
表層鉱物化は、永続性の高いCDR手法として、DACCSやBECCSと比較してもコスト優位性が示されつつある領域である。1トン当たり80ドル未満という目標値はDACCSの典型的価格帯(数百ドル)と比べて格段に低く、実証フェーズで再現性が確認されればボランタリーカーボンクレジット市場におけるCDRクレジットの価格構造そのものを変える可能性がある。