カーボン・サークル・ホールディング(Carbon Circle Holding AS、ノルウェー)と、デンマークの廃棄物処理大手エネルギスト傘下のエネルギスト・キャプチャーコ(Energnist CaptureCo A/S)は2026年4月、デンマーク西部ユラン半島の港湾都市エスビャウ(Esbjerg)に立地する廃棄物発電(EfW)施設において、炭素回収・貯留(CCS)プロジェクトを共同開発するための基本合意書(Letter of Intent、LoI)を締結した。今後数カ月かけて、設計・調達・建設(EPC)フレームワークへの移行を進める方針である。
本案件は単なる排出削減プロジェクトにとどまらず、廃棄物に含まれる生物起源CO2の回収・貯留が炭素除去(CDR)として認証される可能性を持つ点で、欧州ボランタリーカーボンクレジット市場における新たな供給源として注目に値する。
両社の協業では、カーボン・サークルが開発するモジュラー型炭素回収システム「CaCiMod™」の採用が想定されているが、最終的な技術選定は今後の追加合意に委ねられている。廃棄物発電施設は、投入される廃棄物の組成変動が大きく、運転条件も一定でないため、汎用的な大型固定設備よりも、容量や運用条件に柔軟に対応できるモジュラー方式の方が技術的・経済的に適合しやすいとされる。
具体的なインフラ計画は次の通りである。
エネルギストの廃棄物発電施設で回収したCO2は、新設パイプラインを経由してエスビャウ港(Port Esbjerg)に整備予定のCO2ターミナルへ輸送される。同ターミナルでは液化処理と一時貯蔵が行われ、その後、北海の海底貯留層へ船舶輸送されるスキームが想定されている。プロジェクトは現在フィージビリティ・スタディ段階にあり、EPC契約に進む前の技術要件のすり合わせ、コスト最適化、設計精緻化が当面の作業項目となる。
本プロジェクトは、デンマーク政府が進める野心的なCCS推進策の一環に位置付けられる。デンマークは2030年までに温室効果ガス排出量を1990年比70%削減するという法定目標を掲げており、CCSはハード・トゥ・アベイト分野の脱炭素化に不可欠な手段とされている。
デンマーク・エネルギー庁(Danish Energy Agency、DEA)は、複数のCCS補助金プールを運営している。中核となるのは総額287億デンマーク・クローネ(約42億ドル、約6,300億円)規模のCCS基金であり、2030年から年間230万トンのCO2回収・貯留を支援する設計となっている。
加えて、2026年1月にはデンマーク領北海の枯渇油田を活用したグリーンサンド(Greensand)プロジェクトの初の海上CO2貯留サイトが正式承認された。さらに2026年4月15日には、INNO-CCUSイニシアティブの下で4件の新規炭素管理プロジェクトが採択され、その中にはカーボンネガティブ軽量コンクリートの開発を目指すCHARBLOCKも含まれている。エスビャウ案件は、こうしたCCSバリューチェーン整備の流れと連動して進行することになる。
廃棄物発電施設の排出するCO2は、化石起源(プラスチック等)と生物起源(紙、食品残渣、木質バイオマス等)の両方を含む混合排出源である。このうち生物起源部分のCO2を回収・貯留すれば、実質的なネガティブエミッション、すなわち炭素除去(CDR)として扱える点が、本プロジェクトの戦略的価値を大きく高めている。
この構造はバイオエネルギー炭素回収・貯留(BECCS)と類似しており、廃棄物発電CCSは「ハイブリッド型BECCS」とも呼びうる。実際、北欧では先行事例が複数存在する。コペンハーゲンのARC(コペンヒル)は、マイクロソフト(Microsoft)と年間複数十万トン規模のCDRカーボンクレジットのオフテイク契約を締結しており、欧州廃棄物発電CCSがプレパーチェスカーボンクレジットの主要供給源として確立しつつあることを示している。
エスビャウ案件についても、将来的にEU ETSのコンプライアンスカーボンクレジット市場、およびボランタリーカーボンクレジット市場の双方に対応する二重収益モデルが構築される可能性がある。生物起源CO2回収分はCDRクレジットとしてボランタリーカーボンクレジット市場で販売、化石起源回収分はEU ETSの排出枠との相殺に充当する、という分離スキームが現実的な選択肢として浮上する。
加えて、CCS事業の経済性を左右する測定・報告・検証(MRV)の観点では、廃棄物の組成分析と生物起源比率の正確な定量化が鍵となる。アイソメトリック(Isometric)やプロアース(Puro.earth)といった主要レジストリの方法論動向が、本案件のクレジット化可能性を実質的に規定することになろう。