アルカー・キャピタル(Arukah Capital)は2026年3月27日、カンボジアで初となるCO2除去証書(CORC: CO2 Removal Certificate)を、プロアース(Puro.earth)のバイオ炭炭素除去方法論のもとで発行した。アルカー自身にとっても初の発行となるこの成果は、東南アジアにおける高品質な炭素除去(CDR)市場の新段階を象徴するマイルストーンである。
アルカーは2025年より稼働する東南アジア最大のバイオ炭施設をカンボジアで運営し、コメ籾殻をはじめとする農業残渣を熱分解処理によってバイオ炭へと転換している。この製造プロセス全体はデジタル監視システムで管理されており、高い完全性と拡張性を持つCDRの実現を志向している。
各CORCは大気から除去・貯留されたCO2を1トン相当として表章し、少なくとも100年間の永続性が担保される。今回の発行は厳格な第三者検証を経たものであり、監査後の控除率はゼロ(0%)と報告された。これはプロアース基準における炭素会計の高い精度を対外的に証明するものである。
バイオ炭の原料となる農業残渣は、従来であれば野焼きや家畜用寝藁として処理されていたものを転用している。大気汚染源となっていた廃棄物を高付加価値な気候対策資材へと転換するこの方法論は、回避系ではなく除去系のカーボンクレジットとして市場からの評価を受けている。
アルカーの事業モデルの中核は、精緻なデジタル測定・報告・検証(dMRV)基盤と農家への直接的な収益配分を組み合わせた構造にある。炭素収益の50%を小規模農家に直接配分し、バイオ炭の普及支援または原料供給への対価として支払う仕組みを採用している。
センサー群、デジタル監視システム、API連携のdMRVインフラが稼働データと環境パフォーマンスを継続的に収集・記録し、市場参加者に対する高い透明性を担保している。また生産工程では木酢液やシンガスが副産物として生まれ、地域内での利用を通じたコベネフィット(Co-benefit)をもたらしている点も注目される。
アルカーは2030年までに年間100万トンの気候インパクト達成を目指す明確な規模拡大の経路を示している。2026年3月には世界銀行(World Bank)の視察団がカンボジアの同施設を訪問し、炭素固定・農業生産性の向上・農家の生計改善という三つの目標を同時に達成するビジネスモデルへの強い関心を示した。
地元パートナーとして、再生型農業の先駆者であるソーマ・グループ(Soma Group)が農業面での実装を担い、地元の先進製造業者クアンタム(Quantum Engineering and Manufacturing)が設備のローカル生産を手がけている。設備製造の現地化は、高度技術人材の育成という観点でも新興国の経済発展に資する取り組みである。
アルカーは今後、同様の農業条件が整う他地域への展開も慎重に検討している。東南アジアが持つ農業残渣の豊富さ、デジタルインフラの発展、スモールホルダー経済との深い結びつきという三要素が、バイオ炭CDRの大規模展開に向けた構造的優位性として機能するというのが同社の中核的な認識である。プロアースの方法論のもとで一次産業と気候市場を接合するこのモデルは、東南アジア全域への複製が視野に入っている。
バイオ炭CDRカーボンクレジットは、排出回避系が主流だった東南アジアのボランタリーカーボンクレジット市場において「除去系・高耐久性」という質的な転換点を示す事例である。日本においてSBTi目標の達成やScope 3の削減に取り組む企業にとって、永続性が100年以上担保されdMRVで完全性を証明されたCORCは、高品質なCDRクレジットの調達先として具体的な選択肢となりえる。農家収益とのリンク構造というコベネフィットは、途上国農業サプライチェーンを開示対象とするESGレポーティングとの親和性も高く、日本企業のカーボンクレジット調達戦略において注目すべき案件といえる。
参考:https://www.arukahcapital.com/stories/opening-of-southeast-asias-largest-biochar-plant