カナダ・アルバータ州のダニエル・スミス(Danielle Smith)州知事は2026年3月23日、米テキサス州ヒューストンで開催中のCERAWeek 2026において、カナダ北西部ブリティッシュコロンビア州沿岸を終点とする新規石油パイプライン建設計画を正式に表明した。
輸送能力は日量100万バレルを想定しており、中東の政府系ファンド(ソブリン・ウェルス・ファンド)やアジア系投資家が15〜30%の少数株主持分取得に初期的な関心を示しているという。
アルバータ州が構想するこのパイプラインは、カナダ産原油の対米依存度を低減し、アジア市場への直接輸出を可能にすることを主目的としている。現在、カナダ産原油の約90%は米国向けに輸出されており、ドナルド・トランプ前大統領返り咲き以降の貿易摩擦を受けて、輸出先の多様化が州政府の最重要課題として浮上していた。
スミス知事は「イラン情勢の緊迫化とホルムズ海峡の供給リスクを受け、国際投資家がカナダを安全な代替エネルギー供給源として評価している」と説明。正式な民間事業者の参画はまだ決定されていないが、州政府は2026年6月をめどに連邦政府への事業申請を行い、審査の迅速化(ファスト・トラック)を求める方針だ。
この計画が気候政策の観点で重大な意味を持つのは、カナダが施行中のカーボンプライシング制度との整合性問題である。
カナダ連邦政府は産業用炭素価格を現行の1トン当たり65カナダドル(約7,500円)から2030年までに170カナダドル(約19,600円)へ引き上げる軌道を維持しており、油砂開発を含む上流石油・ガスセクターは最大の適用対象産業の一つである。
仮に新規パイプラインが完全稼働した場合、輸送される原油の上流採掘・精製工程から排出されるCO2換算排出量は年間数千万トン規模に達する試算もある。アルバータ州内では炭素回収・貯留(CCS)および炭素回収・利用・貯留(CCUS)投資を通じた「ネットゼロ石油」の実現を標榜する動きが活発化しているが、大規模なパイプライン新設は、カナダの国家決定貢献(NDC)が掲げる2030年排出削減目標(2005年比40〜45%削減)とのギャップを拡大させるリスクをはらむ。
アルバータ州はこれまで、クエスト(Quest)CCSプロジェクトやオイルサンド・パスウェイズ・アライアンス(Oil Sands Pathways Alliance)を通じて、油砂産業のCCUS化を推進してきた経緯がある。州政府がパイプライン建設と並行してCCUS投資を国際投資家への「気候保険」として提示する可能性は高い。
しかし、気候政策の専門家の間では、CCUS投資によって得られる削減効果がパイプライン増設による追加排出量を相殺しうるかについて懐疑的な見方が根強い。追加性(additionality)の観点から、既存の油砂生産に紐づくCCSは「削減」ではなく「緩和」にとどまるとの批判も存在する。
| 時期 | 予定事項 |
|---|---|
| 2026年6月 | アルバータ州、連邦政府への正式パイプライン申請 |
| 2026年内 | 民間事業者・投資家の参画可否判断 |
| 2030年 | カナダの連邦産業炭素価格170カナダドル/トン到達予定 |
| 2030年 | カナダNDC目標年(2005年比40〜45%削減) |
アルバータ州のパイプライン構想は、短期的な資源安全保障とエネルギー多様化の文脈で正当化されているが、日本企業にとっては「需要家リスク」と「Scope 3リスク」が表裏一体の問題となる。カナダ産原油の長期購入契約やプロジェクト出資を検討する場合、カーボンプライシングの上昇軌道とCCUS投資コストを織り込んだバンカビリティ評価が不可欠だ。日本のGX-ETSが本格稼働する2026年度以降、国内炭素価格との整合性を問われる局面も想定され、調達戦略の再点検が急務となりつつある。
参考:https://www.alberta.ca/release.cfm?xID=958863EFF1512-ED54-0BE4-09355087618E7220