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カナダ、CCUS投資税額控除をEOR向けに拡張 米国45Q強化への対抗と「2025年予算除外」方針反転の二重構造

2026.05.14 読了 約6分
カナダ、CCUS投資税額控除をEOR向けに拡張 米国45Q強化への対抗と「2025年予算除外」方針反転の二重構造
出典:イメージ

カナダ連邦政府は2026年4月28日に提出した春季経済アップデート2026(Spring Economic Update 2026)において、炭素回収・利用・貯留(CCUS)投資税額控除(ITC)の適格用途に石油増進回収(EOR)を正式に追加した。

マーク・カーニー首相政権下のフランソワ=フィリップ・シャンパーニュ(François-Philippe Champagne)財務国家歳入大臣が議会に提出した文書で確認できる。2026年4月28日付で発効し、2025年11月27日のカナダ・アルバータ州間了解覚書(MOU)における連邦側コミットメントを正式化する措置である。

注目すべきは、本拡張が2025年連邦予算における明示的なEOR除外方針からの反転である点だ。

カーニー政権は半年以内に方針を180度転換した形となり、アルバータ州との政治取引の色彩を帯びる。アルバータ州のダニエル・スミス(Danielle Smith)首相は「EORは企業がCCUS技術を採用するうえで、よりコスト効率的かつアクセス可能な経路を提供する」と歓迎する一方、ケベック連合(Bloc Québécois)党首のイヴ=フランソワ・ブランシェ(Yves-François Blanchet)は「公的資金が化石燃料拡張に投入され続けている」と批判した。

地中貯留の半額レート、3州限定、95%永続性基準

CCUS ITCは設備の用途別に税額控除率が3層構造で設定されており、EORの追加にあたっては既存の地中貯留・コンクリート貯留向けレートの半額が適用される。

2026年4月28日から2035年末までに発生する適格資本支出に対する実効控除率は、直接空気回収(DAC)に用いる回収設備が30%、その他の回収設備が25%、輸送・貯留・利用設備が18.75%である。2036年から2040年末まではこれらの率がさらに半減し、それぞれ15%・12.5%・9.375%となる。

地理的適格性は、注入されたCO2の95%以上が永続的に地中貯留されることを担保する規制枠組みを有する地域に限定される。実質的にアルバータ州、ブリティッシュコロンビア州、サスカチュワン州の3州のみが要件を満たす想定だ。環境気候変動省(Environment and Climate Change Canada)が州・準州のEOR関連規制を審査し、環境相が適格地域として指定する。

加えて、二重用途設備にはプロラタ規則が適用される。「設備の全てまたは実質全て(all or substantially all)」を石油生産に充てる機器は適格外となり、CCS用途とEOR用途を併用するキャプチャー・輸送設備については、プロジェクト計画書記載の利用比率に基づき控除額を按分する。20年間のプロジェクト評価期間中、5年間隔で実績検証を行い、計画書比で5%ポイントを超えるEOR比率の上振れがあれば税額控除のリカバリー(返還)が発動する設計である。

さらに本拡張は単発の措置ではない。クリーン水素ITCにおける炭素強度計算上、およびクリーン電力ITCの適格天然ガス発電システムにおいて、EOR経由で貯留されたCO2が「永続貯留」として認定される関連修正も同時に実施される。CCUS ITC単体ではなく、カナダのクリーン経済投資税額控除パッケージ全体でEORを「貯留」として扱う方針転換である。

米国45Q強化への戦略的応手

本拡張の構造的意味は、米国45Q税額控除との政策収斂において明確になる。

米国では2025年中盤に成立した連邦税法改正(One Big Beautiful Bill Act)により、EOR向けに貯留されるCO2を対象とする45Qの控除単価が引き上げられた。これにより、純粋な専用地中貯留プロジェクトとEORを伴うCCSプロジェクトの間に控除水準のパリティが成立した。ベネット・ジョーンズはこの点を明示し、カナダのCCUS ITC EOR拡張を「カナダの石油ガス産業の投資誘致競争力を、EORインセンティブを提供する他法域(米国45Q)と整合させる」措置として位置づけている。

つまり今回のカナダ側の動きは、独自の気候政策判断というより、北米CCS投資が米国に集中するリスクへの戦略的対抗策と読み解くべきだ。スミス・アルバータ州首相が歓迎した政治力学だけでなく、米国45Q改正という外的圧力が連邦政府の方針反転を不可避にしたという見方が成立する。一方で、カーボンクレジット品質論の観点からは、北米全体で「EOR優遇込みのCCS」が標準フォーマット化することは、純粋な炭素除去(CDR)と排出回避型CCSの境界をさらに曖昧化させる帰結を伴う。

環境正義と気候政策整合性への疑義

ブランシェBloc Québécois党首の批判が示すように、本拡張への政治的反発は無視できない水準にある。

米国では2026年2月、Food & Water Watchが主導する125を超える市民団体が連名で45Qの廃止を米議会に求める書簡を提出し、CCS税制が「事実上の化石燃料増産補助金」化している実態を指摘した。北米におけるCCS税制とEORの結合は、気候政策の正統性を蝕む論争軸として今後も継続する可能性が高い。

カナダ銀行(Bank of Canada)が政策金利を2.25%に据え置きつつ、世界的不安定性と原油高に伴う経済不確実性に警鐘を鳴らす中での本拡張は、エネルギー輸出戦略と気候政策の優先順位をめぐる連邦政府の立場を象徴する政策措置となる。カナダ経済は2026年に1.2%の成長見通しが示されている。

カナダのCCUS ITC EOR拡張は、政策評価として二重の側面を持つ。

北米CCS産業誘致競争における米国45Q強化への戦略的応手としては合理的判断であり、半額の控除率設定や95%永続性基準、5%超過時のリカバリー機構など名目的な歯止めも組み込まれている点は評価に値する。一方、2025年予算における明示的なEOR除外からの半年後の反転、アルバータ州との政治取引性、米国45Qと並走する形での北米全体の「EOR優遇込みCCS」収斂は、カーボンクレジット品質論および気候政策整合性の観点で深刻な疑義を残す。半額レートは増産原油という追加収益源を考慮すれば実効的な抑止力として機能するか不透明であり、業界の選好はEOR寄りに傾斜する蓋然性が高い。

参考:https://budget.canada.ca/update-miseajour/2026/report-rapport/tm-mf-en.html

関連タグ CCUS 北米
カーボンクレジット.jp 編集部
カーボンクレジット.jp編集部|2023年末に当時日本初かつ唯一のカーボンクレジット専門情報メディアを立ち上げ。高度な専門性とわかりやすさを追求した翻訳力。