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中東紛争が湾岸諸国のCCUS計画を直撃 2030年目標の大幅下方修正が現実味

2026.03.24 読了 約5分
中東紛争が湾岸諸国のCCUS計画を直撃 2030年目標の大幅下方修正が現実味
出典:Rystad Energy

エネルギー調査大手のリスタッド・エナジー(Rystad Energy)は、中東地域で激化する紛争が湾岸諸国の大規模な炭素回収・利用・貯留(CCUS)プロジェクトの存続を脅かしているとの分析を公表した。

産油国が化石燃料の輸出を維持しながら脱炭素を両立させるための基幹戦略が停滞することで、将来的な高品質カーボンクレジットの供給網やクリーン燃料の競争力に大きな狂いが生じる懸念が強まっている。

湾岸諸国CCUS計画の構造的脆弱性

中東・北アフリカ地域で計画されている炭素回収事業の98%以上は、湾岸協力会議(GCC)諸国に集中しており、その多くは国営エネルギー企業が主導している。同レポートは、これらの炭素除去(CDR)インフラが既存の石油・ガスインフラに深く依存しているという構造的脆弱性を浮き彫りにした。

カタール、低炭素LNG戦略の基盤が揺らぐ

具体的なリスクの最前線にあるのがカタールだ。ラス・ラファン工業都市で計画されていた年間410万トン規模の二酸化炭素回収施設は、低炭素な液化天然ガス(LNG)輸出を支える柱として位置づけられ、2030年までに年間1,000万トン超への拡張を見据えた戦略的拠点でもあった。2025年11月には、国営カタールエナジー(QatarEnergy)が韓国のサムスン物産(Samsung C&T)に対し、約14億ドル(約2,230億円)規模のEPC(設計・調達・建設)契約を締結したばかりであった。

しかし、紛争による施設損傷と操業停止により、回収装置に供給されるはずのCO2ストリームが消失した。安全確保とLNG収益の回復が最優先とされるなか、CCUSの再稼働は後回しとなり、プロジェクトの遅延は避けられない情勢だ。

年2,000万トン目標が年1,200万トンへ大幅修正

より広い視点では、中東の計画容量の大半がカタールのLNG連動型拡張計画、サウジアラビアのCCS(炭素回収・貯留)ハブ戦略、UAEのアブダビ中心計画に依存している。リスタッド・エナジーは、カタール・サウジアラビア・UAEを合わせた2030年時点の二酸化炭素回収能力予測を、従来の年間2,000万トンから年間1,200万トン程度へと大幅に下方修正した。資金が炭素除去からエネルギー生産の復旧へと振り向けられるためであり、建設中のプロジェクトでさえ稼働開始が2030年代半ば以降にずれ込むリスクがある。

コスト構造が臨界点に

この影響は中東に留まらず、世界的なカーボンクレジット市場にも波及する。同分析では欧州のCCUSコストへの影響を試算しており、廃棄物焼却施設を例にとったベースケースでは、CO2の回収・輸送にかかる平準化コスト(LCOC&T)はすでに1トンあたり約95ドル(約15,100円)であり、欧州連合域内排出量取引制度(EU ETS)の参照価格である約86ドル(約13,700円)を上回っているため、補助金や政策支援が不可欠な水準にある。

紛争によるエネルギー価格が50%上昇した「中程度の影響」シナリオでは、LCOC&Tはさらに約30%上昇し、1トンあたり約124ドル(約19,700円)に達すると試算される。エネルギー価格が65〜75%上昇し資本コスト再評価も加わる「深刻な影響」シナリオでは約143ドル(約22,700円)まで上昇し、EU ETSの2030年予測価格を貯留コスト分を含める前から大幅に上回る。これは、カーボンクレジットによるカーボンオフセットを前提とした産業界の脱炭素コストを構造的に押し上げる要因となる。

紛争後の回復シナリオと長期的展望

紛争収束後、中東の優先課題は炭素除去よりも炭素化石燃料生産の回復に置かれ、2030年以前のCCUS計画の多くは2030年代半ば以降にずれ込む公算が大きい。一方、欧州・アジアのバイヤーによるライフサイクル排出量への精査強化、湾岸諸国のブルー水素・低炭素ガス輸出戦略、削減困難セクターの脱炭素ニーズといった構造的な需要ドライバーは消えていない。リスタッド・エナジーは、インフレ連動型の輸送・貯留料金設定、柔軟な政策支援(タックスクレジットや差額決済契約)、商品ヘッジ、長期サプライ契約の締結といった対応策によるリスク軽減を、グローバルな開発事業者に提言している。

中東産のブルー水素・アンモニアや低炭素LNGへの依存度が高い日本の電力・エネルギー・製鉄各社にとって、今回の停滞は調達価格の上昇だけでなく、付随するカーボンクレジットの品質・永続性・調達可能性に直結するリスクである。

二国間クレジット制度(JCM)やGX-ETSの文脈でも、中東発のCCUS由来クレジットが当初想定どおりのタイムラインで供給されない可能性を織り込んだ長期クレジット調達戦略の見直しが急務となる。

地政学リスクを前提とした炭素除去(CDR)ポートフォリオの多様化、直接空気回収(DAC)、バイオ炭、岩石風化促進(ERW)など技術由来を含む分散調達を今から設計しておくことが、日本企業の気候変動戦略上の競争力を左右する分岐点となるだろう。

参考:https://www.rystadenergy.com/insights/middle-east-conflict-could-reshape-the-ccus-outlook-in-the-gulf-and-beyond

カーボンクレジット.jp 編集部
カーボンクレジット.jp編集部|2023年末に当時日本初かつ唯一のカーボンクレジット専門情報メディアを立ち上げ。高度な専門性とわかりやすさを追求した翻訳力。