海洋を利用した二酸化炭素除去(mCDR)技術の研究開発を行う非営利組織[C]Worthy(シー・ワーシー)は11月24日、海洋レジリエンス・気候アライアンス(ORCA)およびパトリック・J・マクガバン財団(PJMF)から、複数年にわたる資金提供を獲得したと発表した。この支援により、同社は海洋CDRプロジェクトの信頼性を担保するために不可欠な、測定・報告・検証(MRV)のためのオープンソース・ソフトウェアの開発を加速させる。
「測定できないものはスケールしない」MRVの重要性
海洋はすでに年間CO2排出量の約4分の1を吸収する巨大な自然シンク(吸収源)であるが、人為的にこの能力を強化するmCDR技術の実装には、科学的な不確実性が伴う。カーボンクレジット市場において、プロジェクトが主張する炭素除去量が正確かつ永続的であることを証明するには、厳格なMRVが欠かせない。
今回の資金調達は、[C]Worthyが開発するオープンソースのモデリングプラットフォームの普及を後押しするものだ。このプラットフォームは、海洋アルカリ性向上(OAE)や直接海洋除去(DOR)といった技術が、炭素収支や海洋生態系に与える影響を定量化する計算システムとデータセットを提供する。
[C]WorthyのCEO、マシュー・ロング氏は声明で次のように述べた。 「海洋は炭素除去において巨大な可能性を秘めているが、測定できないものをスケールさせることはできない。我々は、イノベーターが効果的な技術を構築し、社会が新しい選択肢を明確かつ慎重に評価できるようにするための、科学的に信頼できる公共インフラを構築している」非営利スタートアップ「FRO」という独自モデル
[C]Worthyの特筆すべき点は、その組織構造にある。同組織は「収束研究(Convergent Research)」の支援を受け、「重点研究組織(FRO: Focused Research Organization)」という形態をとっている。これは、アカデミアの研究室では規模が大きすぎ、営利企業のスタートアップとしては収益化までの期間が長すぎるような、「公共財としての科学技術開発」を担うための新しい非営利スタートアップモデルである。このエンジニアリング主導のアプローチにより、従来の科学助成金の枠組みでは困難だった、大規模かつ調整されたソフトウェア開発が可能となる。PJMFのヴィラス・ダール会長は、「この提携は海洋モデリングへのアクセスを民主化し、世界中のコミュニティが自信と科学的厳密さを持って海洋気候ソリューションを推進できるようにするものだ」と指摘した。
資金提供の背景と市場への影響
今回資金を拠出したORCAは、気候と海洋保護の重要課題に対して5年間で3億5,000万ドル(約525億円)以上を投じる複数資金提供者のイニシアチブである。また、PJMFはデータサイエンスとAIを活用した社会課題解決に特化した慈善団体だ。
カーボンクレジット市場では現在、方法論の透明性とデータの信頼性が厳しく問われている。特定の営利企業に依存しない、オープンソースで標準化されたMRVツールの確立は、健全なmCDR市場の形成に向けた重要なインフラとなるだろう。
